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妖食フルコース フェスタン <ヴィアンド>

   

「ママ? 聞いてる?」
「あら、ごめんなさい。おとむらいごっこの話だったわね」
「うん。これとこれが、ぼくが作ったおはか」

妖食フルコース フェスタン
 ~第6章:ヴィアンド~

Illustration:まめゆか

 

◆ヴィアンド◆
《カレ・ダニョー・ロティ》
 ~骨付き仔羊のロースト、プラムのソース~

 優れた料理人は、
 仕事を離れたところでは白衣を汚さない。

(フェルナン・ポワン)

 多連チェーンベルトの腕時計に目をやると、午後4時を5分ほど過ぎたところで、ティータイムにちょうど良い頃合いだった。ガーデンテラスでのティーパーティーには、まだ風が冷たいような気もするけれど、角野さんいわく、年明けに新しく買い入れた屋外用のガスストーブを試してみたいとのだという。
 組み立てているところをチラリとのぞいてみたら、箱から出したばかりの屋外用ガスストーブは、街なかのオープンカフェあたりで良く見かける、パラソル型のヒーターだった。あれなら北風が吹きすさぶ季節でも、不思議な薔薇園を眺めながら心地良く過ごせるだろう。エレーヌや梅澤先生にも、喜ばれそうだった。
(それにしても、角野さんって)
 深みのあるオリーブグリーンのチノパンツに、飽きもせずコックコートを合わせていた彼の姿に、思い出し笑いが込み上げる。さすがにシェフ帽までは被らないものの、彼は休業日でも好んでコックコートをまとうらしい。人気ブランドのスーツも良く似合っていたはずなのに、サラリーマン時代のスーツ姿を思い出すのは、もはや至難の業になっていた。
「あら、イヤだわ。一周してしまった」
 すみれの頼みを受けて、庭のどこかで遊んでいる繭たちを迎えに来たのはいいものの、わたしは2人の姿を見つけられないまま裏庭に戻っていた。
 ちょっとした公園なみの広さを持つとは言え、ここはあくまでも個人宅の庭。幼い子供たちが薔薇の茂みでかくれんぼをしているのならともかく、繭の姿まで見当たらないのはおかしい。意地を張って探し続けても、お茶の準備を済ませたすみれたちを待たせるだけだと諦めて、わたしは愛息子の名を呼んだ。
「リオン! リオン、どこにいるの?」
「ママー! こっちー!」
 元気の良い返事と共に、リオンが白薔薇の群生から、ぴょこんと立ち上がる。それを追うようにして繭も白薔薇の茂みから姿を現し、ぺこりと頭を下げた。
「ママ、こっち、こっち!」
「リオン、そんなところに隠れていたの」
「隠れてたんじゃないよ。あのね、ぼくね」
 こっちに来るようにと呼びつけておきながら、リオンが園芸用の小型スコップを手に駆け寄ってくる。仔ライオンの突進よろしく、勢い良く走って来るのを抱き止めてやりながら、わたしはリオンの小さな頭をなでた。
「だめよ、リオン。スコップを持ったまま走ったりしては」
「あ、ごめんなさい、ママ」
 すみれやエレーヌの意見も合わせて慎重に検討した結果、リオンには、わたしを「ママ」と呼ばせることになった。それと同時に、別に誰に言うわけでもないけれど、とりあえずの申し合わせとして、この際いったん「設定を元に戻す」ことにした。
 つまり、わたしとすみれはエレーヌの実の娘で、長女のすみれは結婚して角野姓に。次女のわたしも川原という男と結婚してリオンを授かったものの離婚、現在は高橋姓に戻って母親の画廊を継ぎ、シングルマザーとして奮闘中――というわけだった。
 川原という名字は便宜的に使っていたもので、別に執着はない。
むしろ、さやを受け入れてから送り出すまでの時期にぴったり重なっているから、手放しても構わなかった。そのほうが、「良い思い出」になるような気もする。
「手も膝も泥だらけね。宝探しでもしていたの?」
「ちがうよ。まーちゃんと『おとむらいごっこ』をしてたんだよ」
「おとむらいごっこ?」
「うん。来て、ママにも見せてあげる」

 

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