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南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 第四話 企業内要塞学校(5)

   

松下たちの、「指紋収集作戦」は功を奏した。また、日常の業務を通じて、会社内に仕掛けられた様々な仕掛けについての情報も集めることができた。

しかし、それは、潜入対象である「白波」と「学校」に、要塞的とも言える警備が入っていることを再認識することを意味していた。

カラオケボックスの中で、任務達成のための情報交換を行う松下たちだったが、そこに一人の女性が現れる……

 

「五冊返却ですねっ、ありがとうございます!」
 丁寧におじぎをしつつ、松下はカウンターに置かれた本を手に取った。
 いつも通り陳列し直しに向かうように見せて、「客」が持っていた部分には触らないように注意する。
 そして、四冊の本を棚に入れて、残る一冊の本を持ったまま、小倉に向かって声をかけるのだ。
「ちょっといいでしょうか、小倉さん」
「どうした?」
「この本、借りて行ってもいいでしょうか。地元の本屋じゃどこも売り切れになってまして」
「そりゃあ構わねえぜ。公共物だからな、図書館の本は。ただ、貸し出し処理だけはしっかりな」
 小倉はあっさりと松下の申し出を受け入れた。
 これで、ベストセラーの文庫本とともに、総務課長である池口の指紋データが手に入った。
 今池口が触っていた部分の指紋を照会すれば、まず間違いなく情報を得られるだろう。
 獲得した指紋は、コンピューターのデータベースに保存され、いつでも特殊なフィルムに転写できるようになる。カバーを外してスキャナで取り込むという簡単な工程を踏むだけで良いのだから簡単だ。
 もちろん、松下たちの指紋はあらかじめ登録されているので、より割り出しは容易く、指紋の情報が集まれば集まるほど、除外を進めて、絞り込んでいくことができるようになってくる。
(うまく行っているみたいだな……)
 爽やかな勤務態度を装いつつ、松下は心中でにやりとほくそ笑んだ。
 図書館に仕掛けた「トラップ」が、順調に効果を上げているからだった。
 もっとも、込み入った罠を用意したわけではない。いかにも人気が高そうなベストセラー作品や新刊を、より人目につくように展示し、一日数回は手の脂で汚れた表紙を拭くという、熱心な図書館員の鑑とも言えるようなことをしていっただけだ。
 だが、それが効果を発揮する。
 書店でも売り切れになっているような最新刊本が納入されていれば、借りる人は多いし、手に取る人も増える。
 つまり、情報が集まるのだ。
 さらに、立ち読みされたすぐ後に表紙を拭くことで、紛らわしい情報はリセットされ、松下たちが欲しい人間の指紋だけが手に入る態勢が整えられていく。
 図書館を好んで利用するのは、この工場では少数ということもあり、有効なターゲットに的を絞って入手ができていて、その点でも順調だった。
「指紋作戦」開始から約半月で、松下たちの手元には、事務、用務、警備等々の部課長クラスから派遣社員まで、数十人の指紋データが集まった。
 さすがに重役クラスの指紋はまだ手に入っていないが、まずは上々の立ち上がりと言うべきだろう。
 そして、収集に対する努力は、傍目からは勤務に対する熱心さと、本に対する興味と映る類のものなので、松下への評価は、ますます上昇傾向にあった。
 最近では、新刊購入だけでなく、もっと専門的な、機材導入やイベント開催に関する会議にも出席できるようになっている。優秀なスタッフとして認められつつあるのだ。

 

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