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SF・ファンタジー・ホラー

妖暗ラビリント <入口>

   

(礼央)
 声には出さず、心のなかでそっと呼びかける。
 生きていれば、わたしの礼央は今年で高校2年生になる。

妖暗ラビリント ~入口~

Illustration:まめゆか

 

 疲れていたお母さんは、いつしか、眠り込んでしまいました。
 やがてお母さんが目を覚ますと、病気で寝ていた幼いぼうやも、暖炉で温まっていたおじいさんも、どこかへ消えていました。

【ある母親の物語】

 子に先立たれた親は、何年経っても、死んだ子の歳を数え続けるものだという。たしかに、そうだと思う。当然だと思う。あの初夏の土曜日から――わたしのかわいい礼央がいなくなってから、もう8年もの歳月が流れたけど、わたしもいまだに、礼央の歳を数え続けている。
 礼央だけじゃない。
 あの年に生まれるはずだった2番目の子の歳も、礼央の弟になるはずだった男の子の歳も、ずっとずっと数え続けている。わたしは生まれるまで「神さまにお任せ」でも良かったけど、誠二さんが知りたがるから、妊婦健診のときに掛かりつけの先生に聞いてみた。そうしたら、2番目も男の子だった。
 誠二さんはどちらかというと男の子を欲しがっていたから、嬉しかった。女の子は、いずれ礼央たちが素敵なお嫁さんを連れて来てくれるだろうから、将来のお楽しみに取っておこうと思っていた。礼央が本当に真由さんのことが好きなら、そして真由さんも本気で礼央のことを好きになってくれるなら、礼央よりひとまわり近くも年上のお嫁さんでも、わたしは全然、構わなかった。そんな遠い未来のことまで、母親ならではの気の早さで考えていたりした。
 でも、そんな素敵な未来は、わたしにはやって来なかった。
 あの年の初夏の土曜日に、わたしが手にするはずだったすべての未来が、跡形もなく消え失せてしまった。
(礼央)
 声には出さず、心のなかでそっと呼びかける。
 生きていれば、礼央は今年で高校2年生になる。
 8年前の初夏に何も起こらなければ、今頃はきっと、すっかり背が高くなって、わたしを見下ろすようになっていて。声も誠二さんくらいの低さになって、もしかしたらまだ少し反抗期が続いていたりして。
 幼い頃の「ハイパーレスキュー隊員になりたい」という夢をそのまま大事に持ち続けていたのなら、体力作りの一環として、運動部に入っていたかもしれない。土曜も日曜もないような、部活中心の毎日を送っていたかもしれない。そうしたらわたしは、育ち盛りの礼央の胃袋を満たすために、日々の食事や弁当作りに追われていたことだろう。
 そんな礼央を見て育った2番目の子は、きっと大のお兄ちゃんっ子で。まだ小さいのに何でも高校生のお兄ちゃんと一緒が良くて、優しい礼央を困らせたりして。そんな子供たちのために、誠二さんはさらに懸命に働いてくれたことだろう。そうして子供たちが寝静まったあとは、2人で缶ビールでも飲みながら、子供たちの学資のことで頭を悩ませたりして――――。
(誠二さん)
 誠二さんは、礼央を探しに出たまま帰って来なかった。
 わたしが実家で静養をしているあいだ、会社に長期休暇を申請してまで礼央を探しに行き、そのまま行方知れずになってしまった。どこへ行ったのか、事故に遭ったのか何かの事件に巻き込まれたのか、今になってもわからない。結局、何ひとつわからないまま、ついに法律で「死亡」と見なされる期日を迎えてしまった。
 幸い、まだ元気にしている実家の父母からは、これを機に金沢へ戻るように言われている。年明けまでは意地でも東京に残ってやるつもりだったけど、春先にひいた風邪がなかなか良くならなくて、気持ちより先に体が悲鳴を上げた。もう限界だった。

 

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妖暗ラビリント<全2話> 第1話第2話

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