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星物語<7> 天の川

   

星をテーマにしたミニ小説です。少しでも愉しんで頂ければ……。

 

 砂漠を悠々と流れてきた大きな川が、ついに海に到達した、その河口に小さな町があった。
 その町に生まれたホアンは、物心がついたときから、海を見て育った。
「じっちゃん、あの海の向こうには何があるの」
「大きな滝だ。海を横切ってしまった者は大滝から落ちるしかない」
「ふぅん、恐いんだねぇ」
 ホアンは、少年になると、舟を操る方法を教わった。
 波の形や潮を読んで舵を取り、風を身体で感じて帆を回すのだ。
「いいか、いちばん大切なことは、ぎりぎりに陸が見える所より沖へ行かないことだ。それより先に行くと、大滝に吸い寄せられてしまうからな」
 立派な若者になったホアンは、器用に舟を操るようになった。
 そして、水平線の彼方を見ては、大滝を恐れた。
「あれ?」
 そんなに大きな滝があって、海の水が流れ落ちるなら、海の水がなくなってしまわないだろうか。
 ホアンには、この答が分かるような気がした。
 大きな川が海に流れ込んでいるから、海の水がなくなることはない。
 では、この川の元には何があるのだろう?
 ある日、ホアンは、舟で川を溯ることにした。
 川の流れに逆らうことになるが、風の力は強い。
 帆が風で膨らんでいる。
 ホアンの腕ならば、川を溯るのはたやすいことであった。
 そして――。
 赤茶けた砂漠の中を行くうちに、まわりの景色が変わってきた。
 川の波も変わってきた。
 見たことのない三角波が押し寄せる。
 ホアンは、いったん岸へ舟を付けることにした。
 ふと見ると、岸には一人の乙女が立っている。
 ゆったりとした衣服を風になびかせていて、きれいな宝石で飾っていた。
 ホアンが見たことのない、異国の身なりだ。
 乙女は、耳に心地よい声で聞いた。
「どなたですか?」
 ホアンは、漁師であること、川を溯ってきたことを話した。
 そして、ここが何処なのかを聞いた。
「ここは天上界。この川は天の川です。そう、漁師なのですか」
「はい」
「ひとつお願いがあるのですが……」
「なんでしょう」
「川の向こうにいらっしゃる彦星様へ会いに行くところなのですが、この波で渡れません。なんとか、渡して下さいませんか」
「そうですね。この波は普通じゃない。素人じゃ無理だ。いいですよ。渡してあげましょう。舟にお乗りなさい」

 こうしてホアンは、七夕のときに、織り姫が彦星に会う手助けをすることになった。
 どういうわけか、天の川に三角波が立つことがある。
 このときに、ホアンが熟練した腕で織り姫を助けるのだ。
 七夕の日、一番星が出たときに、三つの白い流れ星が見えたならば、ホアンは丈夫な舟を操って川を溯るのであった。

 

─Fin─

 

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