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歴史・時代

東京探偵小町 第三十一話「夢で逢う」 <3>

   

『そんな……それじゃ、銀さんの体は』
『わがはねを、あんだくさりが、えいえんのいましめに』
『それって痛いんでしょうかね? 苦しいんでしょうかね?』

小説版『東京探偵小町
第九部 ―錯綜編―

Illustration:Dite

 

 一年ほどの時を経て蒼馬の手元に戻って来た虎猫を、蒼馬の退院まで預かることになったサタジットは、大きな手提げかごを携えて下宿に戻った。薬局を営む大家夫妻はサタジットの予想通り、縞を好意的に受け入れた。聞けば、夫妻はかつて愛らしい三毛猫を飼っていたことがあるのだという。
「おやおや、賢そうな猫だこと。毛並も良くて」
「ナマエはシマといいます。タジさんのちいさなオトモダチから、あずかってきたんですヨ」
「猫は棲みかを変えたがらないって言うけど……なんとか、うちに慣れてくれるといいわねぇ。これ、猫の寝床にお使いなさい」
「ヤーヤー、シマのベッドですネ、かっこいいですネ」
 古い米ざるに雑多な端切れを敷き詰めたものが、縞の寝床として供される。サタジットの間借りする六畳間に降り立ち、あちこちを物珍しそうに眺めていた縞は、やがて米ざるに入って行儀良く座り込んだ。
「おお、シマにぴったりです」
「畳はともかく、柱だけは気をつけて下さいよ。替えが効きませんからねぇ」
「ハイハイ、わかりましたヨ」
 大家は暑い暑いとこぼしながら階段を下りて行き、やがて六畳間には、サタジットひとりと虎猫一匹だけになった。縞も長旅で疲れているだろうと、サタジットはそのまま縞を寝かせてやるつもりだったが、縞はすぐに米ざるから抜け出し、ひょいと本棚に飛び乗った。
「シマ、ミガルですネ!」
 感心したようにうなるサタジットを尻目に、縞は本棚の上に飾られていた、一枚の絵に見入った。簡素ではあるが額装を施した絵は、蒼馬がこの春に横濱で描いた、青藍の素描だった。この春、時枝は上海への短い里帰りを予定していたのだが、時期外れの大嵐のために港で足止めを食い、ちょうど絵仕事で横浜を訪れていた蒼馬と、同じホテルで行き会ったのである。
 そのとき、時枝が青藍も伴っていたため、蒼馬は時枝から青藍を借り受け、画帳と色鉛筆を手に嵐のつれづれを慰めた。ほんの数日のこととは言え、異国への帰省となれば万障繰り合わせて見送りに行かねばと横濱に同道したサタジットは、そこで蒼馬と親しく話をする機会を持った。そうして描き上がったばかりの素描と、抜け落ちた青藍の風切り羽根を記念にもらってきたのだった。
「シマはトリがすきですか? このあおいトリは、セイランといいます。マハラーニがとてもタイセツにしていたトリで、ソーマくんがナマエをつけたのです。ノラネコにおそわれて、しんでしまいましたが…………」
 縞は、黙って青藍の素描を見つめている。
 サタジットは立ち上がって本棚の前に立つと、素描の片隅に植物標本よろしく丁寧に貼り付けた青い風切り羽根を、「セイランのハネですヨ」と指し示した。その美しさと小ささが、今は土の下で眠る青藍の、生前の姿を物語っていた。
「アオイロに、アイイロとかいてセイラン。いいナマエでしょう。おお、シマのナマエも、ソーマくんがつけましたネ。フシギなエンですネ」
 サタジットの言葉に相槌を打つように、縞がかすかに首を動かす。縞は無言で青藍の素描を見つめ、サタジットが本棚から降ろそうとしてもその手をすげなく振り払い、まるで魅入られたように青藍の素描を見つめていた。
「わかりました、シマもセイランのエがきにいったのですネ。タジさんに、よいかんがえがあります」

 

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