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南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 第四話 企業内要塞学校(17)

   

「冷たい爆弾」は、シュウに戦闘不能に陥るほどの深刻なダメージをもたらした。しかし、後退が許されない松下たちは、再び前に進み、「教室」があった場所まで引き返すと、その空間に、奥へとつながる通路を発見した。

通路を進んでいき、ついに、「機密保管庫」と記された表札と扉に辿りつくことに成功した松下だったが、そこで、いかにも厄介そうな集団と向き合うことになるのだった……

 

 うまく肉体操作でもしていたのか、シュウの体には、幸いにも、致命的とまで言えるような深手は一つもなく、出血量もそこまでひどくはなかった。
 しかし、松下が肩を抱いて、一緒に連れて行こうとすると、シュウは、ほんのわずかながらもはっきりと、松下に対して、拒絶の動きを示した。
 松下は、不満と怒りの感情が噴き出てくるのを感じながら、問いただした。
「どうしたんだ、シュウ。どこか痛むのか?」
「い、痛みなど大したことはありません。ただ、気に入らないだけです」
「何だと」
 思わず気色ばむ松下に向かって、シュウは薄く笑い、活力がまったく含まれていない笑い声をこぼしながら続けた。
「ふ、だってそうでしょう。効率的じゃない。動けなくなった僕を連れて、この迷宮を抜けようというんですからね。言っておきますが、僕の方では、もう何もできませんよ。完全に打ち止めです。服もこの通りですし、ろくな道具も残ってはいません。あとどれだけあるのかは分かりかねますが、まだ罠はあるんです。置いていって……」
「黙れ……っ!」
 松下は、拳を振るっていた。
 理性よりも感情が、疲労し切っている体を突き動かし、シュウの右頬に一撃を見舞わせていた。
 拳骨まで響く確かな感触と、鈍い音を伴って、シュウの頭部が後ろへ跳ね跳ぶ。
「そう言うんじゃねえだろ、俺たちはっ! 人間ってのは! 理屈が合っていりゃあ、見切っていいってもんじゃねえんだよっ! 俺だったら、物にだってもう少し愛着を持つぜ。……なあ、シュウ。俺は、お前を正直、気に入ってねえところはある。お前もきっと、そうなんだろう。でも、俺らは仲間だ。ずっと一緒にやってきた仲間なんだ。そんな仲間を、見捨てられるワケがねえだろう!?」
 肩を抱えられた状態で、遠慮なしの一撃を食らったシュウは、数秒の間を置いて、ゆっくりと顔を元の位置に戻した。
 美しい唇が赤く染まり、鮮血がいくつもの筋となって、顎を伝っている。しかし、シュウは、痛みに顔を歪めるでもなく、ふっと笑った。
「まったく、あなたって人は……。こういう時は普通、き、気に食わない、なんて言わないものですよ。でもまあ、こ、ここは、甘えておきましょう。無事に帰れなければ、きつい一発のお返しもできませんからね。奥歯四本、支払って貰います、か、からね……」
「せめて二本に負けてくれ」
 松下の言葉は、シュウに届いているかどうか分からなかった。シュウは、硬く目を閉じ、意識を断ち切ってしまっていた。
 睡眠よりも、気絶と形容したほうがずっと近いだろう。
 なるほど、確かにこの状況では、さすがのシュウでも、戦力未満にしかならないはずだ。
 しかし、そんなことはもはやどうでもいい。全員が無事に帰れなければ、「発掘研」の意義はないのだ。
「行くぞ。急がなくちゃなんねえしな」
 松下は、短く新藤と千夏を促し、先を急いでいった。

 

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