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SF・ファンタジー・ホラー

妖精たちの子守歌 <小児>

   

「ねえ、ママ。まゆ、本当に赤ずきんちゃんみたい?
 リオンくん、まゆのこと、ちゃんと助けにきてくれるかなぁ」

妖シリーズ補完編
妖精たちの子守歌 ~小児~

Illustration:まめゆか

 

「体の白い者は白い舟に、黒い者は黒い舟に乗るものだよ」
 そう言うと、ウサギは杉板で舟を作り、タヌキには泥で舟を作るようにすすめました。そうしてふたりで川に漕ぎ出すと、ウサギは魚がたくさん寄って来るようにと、かいで船べりをトントンと叩きました。タヌキも同じように船べりを叩くと、泥舟はあっという間に崩れて沈んでしまいました。

【かちかち山】

「ひぃぃええぇぇぇっ、うええええぇぇっ、まぁまぁぁぁ!」
「おい、繭、どうした。なんだ、いきなり」
「まぁまあぁぁ、あああぁぁぁああ、まーーまーーーっ!」
 狂ったように泣き叫ぶとは、こういう状態を言うのだろう。
 愛娘の感情の上下について行けず、オレは途方に暮れた。
「ママは寝てる。パパがいるだろう、パパが」
「ままー! ままー、あついー、あついー、あついよおぉぉう!!」
「熱くねェよ、何でもねェだろ。泣くなよ、おい、泣くなって」
 こういうとき、男親は弱い。
 幼い子供が全身全霊で女親を呼んでいるとき、その目に男親の姿など微塵も入っていないからだ。オレにガッチリしがみついているくせにオレの女を声の限りに呼ぶ、そんな愛娘をどうやってあやしたものかと焦っているうちに、廊下からオレの女の足音が聞こえてきた。
「あなた、どうなさったの」
「ままっ、ままー!」
 オレにとっても、オレたちの娘にとっても「救いの女神」となる女の声。オレの女が髪を手櫛で整えながら子供部屋に入るや否や、その声に安心した愛娘が、さらに声を張り上げて泣いた。
「ひううっ、うぅえっ、ままー、あついー! あついよー!」
「あらあら……大丈夫よ、繭ちゃん。ママがいるわ」
「まーまー!」
 オレたちのかわいい娘が、本物の幼児と同じように精一杯に腕を伸ばして「抱っこ」を求める。ワイン色のシルクガウンをまとって寝室で休んでいたオレの女は、嫌な顔ひとつすることなく、求めに応じて大きな幼児を抱き上げた。
 本当に、本物の4歳児を抱き上げるように。
 優しい微笑みと共に腕を差し伸べて、軽々と。
 ここ半月というもの、固形物をまったく口にしていないクセに、どこにそんな力があるのか不思議だった。
「ままー、あついよー、あついよー」
「大丈夫よ。ほら、ね、熱くなんてないでしょう」
 自分とさほど変わらない体格の娘を抱き上げ、「熱い熱い」と泣きじゃくるの懸命になだめる。梅澤のじいさまが描いた渾身の『かちかち山』のおかげで、炎に包まれたときの恐怖を思い出したのか、オレたちの娘は泣き止む気配を見せなかった。
 大火傷以降のショック続きから、オレたちの娘は記憶がひどく曖昧になっていた。自分が火傷の療養をしていることは理解しているのだが、今がいつで自分が何歳なのか、まったくわからないらしい。
 そのくせ、製菓学校で習ったレシピや、オレたちが教えた仕事をふいに思い出して、朝から働こうとすることがある。そんなときに声をかけると、ほんの一瞬だけ「二十歳の角野繭」に戻ったような顔になるのだが――ひと言でも喋ると、また元通りだった。
(…………どうしたモンかね)
 この愛すべき養女は、体以上に心をいじられている。
 本来の記憶が少しずつ削られ、異なるものに置き換えられ、崩壊すればありったけの補強材を駆使して修繕され、「より良いもの」に作り変えられていく。

 

-SF・ファンタジー・ホラー

妖精たちの子守歌<全3話> 第1話第2話第3話

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