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SF・ファンタジー・ホラー

妖精たちの贈り物 <かぜ>

   

「義兄さんを見込んでお願いよ。この3日間のうちに、クリスマスほどくだらないものはないと、うちの子に教えておいてもらえないかしら」
「おいおい」

妖シリーズ補完編
妖精たちの贈り物 ~かぜ~

Illustration:まめゆか

 

 昔々、あるところに、3匹の仔ブタを持つ母ブタがいました。
 貧しい母ブタは、子ブタたちを満足に育てることができませんでした。そこで、子ブタたちの将来を考えて、家から出すことにしました。

【三匹のこぶた】

「あなた……あなた、どちら?」
 遠くから、オレの女の声がする。
 裏庭の焼却炉を整備していたオレは、顔に頭に盛大についているだろう煤を拭いながら「こっちだ!」と声を張り上げた。
「こちらにいらしたのね」
「おう、外回りは天気のいい日にやっちまわねェとな」
「すみません、お手伝いもせずに」
 北風に乱される髪を押さえて、オレの女が申し訳なさそうに眉を寄せる。オレは煤で汚れたブルゾンを脱ぎ、オレの女に着せ掛けてやった。
「変温動物なおまえさんを、こんな冷たい木枯らしに何時間もさらすわけにはいかねェよ。それより、庭に出るときは何か羽織れ」
 オレの女が、小さく笑ってうなずく。
 手伝ってもらえれば、それは楽だろうが、オレの女は寒さというものに異常に弱い。冬場の外出は、温室育ちの脆弱なバラを、寒風吹きすさぶ戸外に放り出すようなものだった。
「今年は割に調子がいいってのに、無理してまた寝込まれちゃかなわねェよ。ひとりメシってのは、わびしいモンなんだぜ?」
「ふふ、ごめんなさい、あなた」
 誰よりも美しいオレの女が、飾り気のない黒いワンピースの上に、放出物のミリタリーブルゾンをばさりと羽織って立っている。古い名画の、モノクロのポスターで、こんな光景を見掛けたことがあるような気がする。オレの女の、いつも何かを夢見るような視線は、セピア色の往年の大女優にどこか似ていた。
「天気はいいが、風が強いからな。体、冷やすなよ」
「ええ、気をつけますわ。屋内の掃除は、来週から少しずつ手伝いますから」
「ああ、頼む」
 12月の声を聞くや、オレはひとりで邸内の大掃除に取り掛かっていた。今日も朝からまめまめしく働き、午後からは裏庭の焼却炉をやっつけている。厨房に鎮座する大小2台のオーブンが花形なら、裏庭の片隅にどっしりと構えるコイツは、さしずめ縁の下の力持ちと言ったところだった。
 オレの影の相棒とも言える、業務用の大型焼却炉。
 火力は業務用最大で、二次燃焼バーナーと除塵装置もついている。排煙や排気も文句ナシ、ここに突っ込んだものは何でもキレイに灰になる。最大火力で頑張っているときのコイツは、まさに地獄の大釜そのものだった。
「ところで、どうした。繭がまた泣きやまねェのか」
「いえ、実は」
「義兄さんに、ひとつお願いがあるのよ」
 オレの女の言葉を引き取ったのは、モノトーンのパンツスーツに白のトレンチコートをラフに羽織ったサヨリ女だった。その手には、ダークチェリー色の厚手のストールがある。オレの女は羽織らせたばかりのブルゾンを脱いでオレに着せ掛けると、神出鬼没のサヨリ女から自分のストールを受け取った。
「ハ、誰がニイサンだ」
「あら。だって、姉さんの旦那さまですもの。ねえ、すみれ」
 オレの女は、クスクスと笑うだけで答えない。
 サヨリ女は量も長さもある髪をバサリと払うと、やけに疲れた調子でオレの女に飲み物をリクエストした。

 

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