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歴史・時代

海舟こぼれ話(2) 猫の夢

   

 人間五十年、夢幻の如くなり。
 匂える花のしあわせを、
 求めぬもののあるべきか。

 

 明治維新の功労者の勝海舟は、人と話をするのが非常に好きだった。
 興にまかせて語った談話は、彼を慕う人々の手で本としてまとめられている。
 その中でも、例えば『氷川清話』などは文庫になっていて、手軽に彼の語り口に接することができる。
 このような本を読めば、幕末の混乱期に彼がどのくらい苦労したのか、どのようなビジョンを持って新しい日本を作ろうとしたのかがよく分かるであろう。
 だがしかし、維新の功労者という名声の影には、ざっくばらんな江戸っ子気質があり、膨大な雑学の知識が隠されているのだ。
 それらのエピソードを今日に伝えているのは、深川の由緒ある料亭〈小吉〉に残された、お静という創業者が残した日記だけである。
 その日記によると、勝海舟は、あるときは大川端で夕涼みをしながら、あるときは雪の降り積もる夜に炬燵で熱燗を飲りながら、ポツリポツリと昔話をしたということだ。
 ここに記すのは、そんなエピソードの一つである。

 雪が、静かに、間断なく降る夜、勝海舟はお静と炬燵に入って向き合っていた。
「寒いわねぇ。身体の芯から冷えてくる」
「そうだな」
「こんなに寒い日だと、猫がほしくなるわ」
「猫?」
「ええ。猫を抱いて寝ると暖かいんですよ」
「なるほど。だがなぁ、どうせ抱くなら、他のものにしたらどうだ」
「あら、じゃ、御前が……」
「バカ言いなさんな。もっと若い奴だよ」
「いや。若い男は嫌いです」
「お静さんにも困ったものだ。おとなしく身を固める気はないのかね」
「ありませんね」
「そんな啖呵を切って、一体どうするつもりだい」
「どうでもいいでしょ、っていいたいけれど、実はねぇ、御前」
「なんだい」

 

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