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幻影草双紙3〜運のいい男〜

   

 これまで運に恵まれたことがありません。
 宝くじを買いつづけているのですが、当選したためしがありません。
 一等三億円、とは言いません。
 せめて、五万円でいいから、当選しないかなぁ。

 

 さる大企業の小さい会議室である。
 そこに、人事部長の佐伯と、その部下の中村がいた。
 彼らの前には、入社希望の佐々木昌治が座っている。
 入社希望者の面談を行っているのだ。
 大学新卒者の面接ではない。
 キャリヤアップを目指す転職者の面談なのである。
 新卒者の面接、といった堅苦しいものではない。
 仕事をするものどうし、という雰囲気で面談は進んだ。
 
 佐々木昌治は、食品関係の大手で経験を十年積んでいる。
 現在の役職は部長補佐。
「まだお若いのに、大したものですね」と人事部長が言った。
「運がよかったと思います」
 佐々木は、表面は謙虚に、しかしさりげなく自分をアピールする口調で話した。

 佐々木昌治は、(自分は運がいい人間だ)と信じていた。
 最初のきっかけは大学時代であった。
 食品化学講義の最終試験が近づいたときのことである。
 柔道ばかりやっていた佐々木は、勉強が苦手であった。
 どうにかやりくりして各教科の試験をパスしていたのだが、食品化学だけは別であった。
 真面目一辺倒の教授の授業であり、試験範囲が膨大に多いのだ。
 しかも、「柔道全国大会で準優勝したんだから、ま、点をやるか」というような融通が効く先生ではなかった。
(こりゃぁ、落ちるな)
 再試、下手をしたら留年、を覚悟した。
 試験の二日前、食品化学の実習室で爆発事故が起きてしまった。
 その後始末で忙しくなった教授は、試験を中止し、レポートに振り替えた。
 これで佐々木は卒業が出来たのである。

 

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