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ノンジャンル

幻影草双紙5〜覗き〜

   

 この前、バードウォッチングをしました。
 偶然、向こうのマンションに双眼鏡の焦点が合いました。
 偶然、若い奥さんが、セーターを脱いでいて……。
 バードウォッチングをしていたんですからね。
 小鳥を見ようとしたんですからね。
 念のため。

 

 中島は、警察の取り調べ室で震え上がっていた。
 これが会社に知られたら首になるだろう。
 長い就活をしてようやく会社に入れたのに、すべてがゼロになってしまう。
 実家に帰ることもできない。
 厳格な両親である。
 勘当されるだろう。
 それに田舎のことだから、中島は警察のお世話になった、という噂があっというまに広がるはずだ。
 もう人生は終わりだ……、と中島は想像した。
 目の前の刑事が、地獄の閻魔様のように見える。
 刑事が、ドスのある声を出した。
「まったく、もう」
 中島はうなだれるばかりである。
「どうするつもりだ」
「……」
「おい、何とか言えよ」
「……」
「しょうがねぇなぁ」
「……」
「なぁ、このままじゃ、ずっと泊まってもらうことになるぜ。会社にも話して――」
 中島は、思わず顔を上げた。
「ん、会社に知られちゃまずいか? そりゃぁ、そうだよな」
 中島は、無言で頷いた。
「でもなぁ、ま、初めてだから、今回はお灸をすえるだけ、としてもいいんだぜ」
「会社に黙っていてくれますか?」
「ああ」
「親にも?」
「うん。ただし、調書だけは作っておかなければならないから、全部話してもらうぞ」
「黙っていてくれるなら……」
「いいだろう。話せ」

 

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