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歴史・時代

ハヤブサ王 序章 三人の妃

   

 4世紀初頭、日本がまだ倭(ワ)と呼ばれていたころ、ホンダワケ(応神天皇)と呼ばれる大王(オオキミ)のもとに、ワケノミコという王子が生まれた。彼の背中には、生まれつき翼のようなアザがあった。ゆえに、人々からはハヤブサ王と呼ばれるようになる。
 これは、権力闘争に明け暮れる男たちの裏で、権力の道具にされながらも真実の愛を求めた女たちと、愛に生きた1人の男の物語である。
※ この物語は、『古事記』『日本書紀』をもとにした官能時代小説です。そのため、エロ部分が少なめとなっておりますので、ご容赦ください。

 

 御簾が揺れる音に、女はすっと腰を浮かした。片手で御簾を押し開けると、痛いぐらいの夕焼けが目に飛び込んでくる。女は、そっと目を閉じ、昼と夜の狭間に耳を澄ました。枯葉の舞い落ちる音。遠くで烏の鳴き声がする。
 夕日は、無常とともに山際に沈んでいく。
「イトイヒメ様、大王様ですか?」
 イトイヒメと呼ばれた女は、ゆっくりと目を開ける。
「いえ、秋風です。随分寒くなってきました。もう戸締りをなさい」
 イトイヒメが手を放すと御簾が垂れ下がり、日の光が遮られた屋敷は一瞬にして闇に包まれた。
「ですが、大王様が…」
「もう今日はいらっしゃらないわ。いえ、今日もね」
 イトイヒメは、困り顔の侍女の脇をすり抜け、寝所へと下がっていった。
 寝所に入ったイトイヒメは、火も入れずに一人床に伏して泣き続ける。こんな夜をいったい幾度となく過ごしてきただろうか。そして、これから何夜も一人で過ごさなければならないのだろうか。それを考えると、正直言って辛い。
「子でもいれば、また違うでしょうに」
 子のない寂しさを痛いほど感じる。
「大王様はいまごろ、ミヤヌシヒメの下でしょうね」
 イトイヒメは、大王とミヤヌシヒメが睦み合う姿を想像して、一人身悶える。
「ああ、私は、なんと不潔な」
 だが、成熟した女の一人寝は寂しい。欲しい。男の肉が欲しいのである。
 裳(はかまのような服)をそっと引き上げると、むっちりとした太ももが露出する。イトイヒメは、その豊かな足の間に、白魚のような指を滑り込ませていった。ぬるりとした感触が指先に伝わる。濡れている。すでに、濡れている。
「二人の行為を想像して濡らしているなんて…」
 心は拒絶する。だが、女の場所は欲していた。指先を欲していた。いや、指先よりも、さらに太く、硬く、そして熱いものを欲していた。
 だが、そのものは、他の女を喜ばせている。
 なのに、彼女はそのものを想像して、己自身を慰めている。
「ああ、駄目です。大王様、そこは、あん、あっ…」
 イトイヒメは、指先で己を導いていった。

 

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