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SF・ファンタジー・ホラー

妖精たちの贈り物 <にわ>

   

「ぱぱ、まゆ、もういっこたべていい?」
「おう、早く元気になるためにも、どんどん食っとけよ。そっちのタンとハラミなら食べ頃だ」

妖シリーズ補完編
妖精たちの贈り物 ~にわ~

Illustration:Dite

 

 三番目の仔ブタにだまされたと知ったオオカミは、もうカンカンです。オオカミは「おまえを食べてやる」と言うと、レンガの壁をよじのぼり、煙突からなかへ入ろうとしました。

【三匹のこぶた】

 外に出る機会が少ない割に、ガキどもはいつのまにか妙なことを覚えてくる。刺激の少ない生活のなか、見慣れないものや聞き慣れないものに、興味津々なのだろう。だから、一度見聞きしただけで覚えてしまうのだ。
 たまたま見かけたテレビ番組から「クリスマス」なるものを知り、母親役のサヨリ女を困らせたちびライオンは、年が明けるや今度は「バレンタインデー」というものを覚えてウチにやってきた。だが、これはサヨリ女が自分で吹き込んだものらしい。
 2月14日は、好きな相手にチョコレートを贈る日。
 日本では基本的に女から贈るものだとオレは認識しているが、愛息子からのチョコレートを期待しているサヨリ女は、詳細を省いて教えたらしい。結果、ちびライオンはオレたちの娘をはじめ、好きな人たちに贈るチョコレートを用意したいと、いつでも頼りになる「おじちゃま」に相談を持ち掛けてきたのだった。
「全部で何人分だ?」
「えっとね、ママとまーちゃんと、おばあちゃまとおじいちゃまと、おばちゃまとおじちゃまと、あとでスイスのお姉ちゃまにも送ってあげたいから……7人分!」
「そりゃ大仕事だな」
 最後から2番目だが、一応、オレの名前も入っていることに少し満足する。オレの女はオレたちの会話にしのび笑いをもらしながら、ちびライオンに子供用のタブリエをつけてやった。胸当てつきの、サロペットのようなタブリエで、サヨリ女が自作したらしい。
 去年のクリスマスの朝、自分の枕元に念願の子供包丁を見つけたちびライオンがあまりに喜んだため、それにほだされて作ってやったのだという。人形娘を手放して母親役を買って出たものの、育児のキモはオレの女と老人たちに丸投げしているサヨリ女には珍しいことだった。
 無論、サヨリ女のことだ、無償奉仕であるはずがない。
 世間のことなどほとんど知らないちび助に、1月のうちからバレンタインの存在を教えたのは、愛息子からのチョコレートで針仕事の苦労を回収するつもりなのだろう。あとでサヨリ女の分だけ失敗作にすり替えてやろうかと思いつつ、オレはちびライオンにレシピ案を提供してやった。
「ある程度の量が要るってことなら、チョコチップ入りのドロップクッキーあたりでいいんじゃねェのか」
「クッキーはだめだよ。クリスマスにサンタさんに作ったの、ママたちにもあげたもん」
「ああ、そういや、チムトシュトルネを焼いたんだったな」
 ちびライオンの身支度を終えたオレの女が、オレに軽く目配せをする。オレもうなずき返すと、オレの女はかわいいミイラ娘の看病に戻るべく、いそいそと厨房を離れた。
「おじちゃま、ぼくね、サンタさんからもらったほうちょうを使いたいんだ。チョコを作るのに、ほうちょうって使う?」
「おう、ショコラティエにだって包丁は必要だ」

 

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