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幻影草双紙9〜松竹梅〜

   

 鰻重は、〈竹〉を食べます。
 最下位は注文しない、というミエ。
 でも、最上位を頼むのは、お金がもったいない、というケチ。
 それで真ん中になるのです。
 こういう性格では大物になれませんね。

 

「ワン、ツー、スリー、はい、ワン、ツー、スリー」
 壁一面の鏡を背にして、振り付け師が声をからしている。
 フロアで踊っているのは、若い三人の女の子であった。
 邪魔にならない壁際で見ているのは、マネージャーの立花である。
 立花の隣に控えているのは、新人の太田。

 立花の目は真剣であった。
 あと一ヶ月で、三人の娘を仕上げなければならないのだ。

 最近の芸能界では、多数の女の子が乱舞するのが流行っている。
 また、奇妙な芸名も出てきている。
 そうした流行に押されて、立花の芸能プロダクションは売り上げが落ちてきた。
 なんとかしなければならない。
 立花は、冷静に、次の戦略を考えた。
 もちろん、多数の女の子の乱舞、という二番煎じをするつもりはない。
 現在から将来への大衆文化の動向、短期の流行、長期の流行、こうしたことを分析したのである。
 そして、立花が出した結論は――。
 人数は三人が最適。
 名前も、突拍子すぎるのは不可。
 最後は実力が物をいう。
 安易な流行に左右されず、実力で長く稼ぐ。
 これで戦略が決まった。
 三人組の名前――、で立花が思いついたのは〈松竹梅〉であった。
 誰でも知っている語句で親しみがある。
 この名前から、和風でいこう――、と作戦が出来た。
 衣装は、キンキラキンの着物タイプで、もちろん手や足は出してセクシーさを強調する。
 振り付けは、住吉踊りをモチーフに、現代風にテンポを速めたもの。
 歌の原点は『お富さん』。
 オーディションをし、三人の女の子を選び……、訓練を重ね……。
 緻密に計画した宣伝をして……。
 デビューまであと一ヶ月となった。

 立花は有能である。
 ここにいたるまでのさまざまな障害を、彼一人で解決してきた。
 例えば、名前の問題。
 グループ名が〈松竹梅〉で、三人のそれぞれが、〈松〉、〈竹〉、〈梅〉の芸名となる。
 ところで、松竹梅には、この順序でグレードが付く。
 鰻屋のメニューを思い浮かべてもらえればよい。
「芸名で、最初から順位をつけるのね」
 と彼女らは言わなかったが、そう考えていることはまちがいなかった。
 なにしろ感じやすい年頃の娘たちなのだ。
 立花は、各人の芸名をアミダクジで決めることにした。
「確率論と群論で、アミダクジが公平なことは証明されているんだよ」

 

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