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幻影草双紙10〜既視感〜

   

 幻創文庫の編集者を訪ねたとき、前に会ったことがあるような気がしました。
 既視感?
 それとも誰かに似ているのか?
 ようやく分かりました。
 『ローマの休日』のヒロインにうり二つだったのです。

 

「ここは、前に来たことがあるみたいだ……」
 秋山周平は、目の前の屋敷を見て、言った。
 パームスプリングスに建つ壮大な屋敷である。
 ミッドセンチュリーの雰囲気を残しながら、現代風に改築されている。
「実際に来たことがあるんじゃないのか?」
 秋山周平の右脇に立つアメリカ人が言った。
 秋山の二倍ほどの体格を持った大男だ。
「そんなはずはありません。アメリカへ来たのは、今度が初めてです」
「じゃぁ、見るのは初めてのはずだよな」
「ええ。でも、どこか……、見たことがある気がする。記憶にあるんだ……」
「記憶にある、そう思うのかい。それじゃぁ……」
 大男は、秋山の左脇に立つ女性を見て、続きを促した。
「写真で見たかもしれないわね。日本で。この屋敷は、有名な映画スターが住んでいたこともあったから。どうかしら?」
「それは考えられます。でも、写真じゃぁ、雰囲気はつかめない。ここに立って、この雰囲気を体験した気がするんです。大きな家の雰囲気……」
「でも、来たことはないんでしょう?」
「はい」
「既視感、かしら?」
「既視感、デジャヴュですね。あれは、心理的な錯覚です。実際にあるもんじゃない。昔、習いました。医学部で」
 大男が、皮肉な笑い顔で言った。
「錯覚? 実際にあるかもしれないぞ。ここに住んでいた映画スターの生まれ変わりがお前で……。それとも……」
 大男が、軽口を続けた。
「それとも、お前の魂が、寝ている間に抜け出して、パームスプリングスまで来た、とか」
「日本からですか? まさか。そんな非科学的なことを言って……」
「なら、科学的な説明をしなければならないわね」
「はい、そうですね。考えなければ……。でも、頭が痛くなってきたなぁ……。車で休んでいいですか?」
「もちろんよ」
 大男は、後ろに控えていた警官に合図した。
 警官は、秋山周平の腕を取り、パトカーに乗せた。
 大男の警部は、女性弁護士に言った。
「これでいいか?」
「そうね」
「じゃぁ、前に来たことがある、と証言したと報告書に書こう」
 秋山周平は、「前に来たことがあるみたいだ」と言ったのであるが、後の部分は省かれてしまったのである。

 

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