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SF・ファンタジー・ホラー

妖精たちの贈り物 <はな>

   

「パパ! 水そう! 水そうかして!」
「スイソウ?」
「あのね、リオンくんがね、金魚をもらってきたの!」

妖シリーズ補完編
妖精たちの贈り物 ~はな~

Illustration:まめゆか

 

 三番目の仔ブタは、すぐに鍋にふたをしてその上に乗り、オオカミをことこと煮てしまいました。その晩、三番目の仔ブタは、オオカミのスープを食べました。仔ブタには、もう怖いものなんて何もありません。こうして仔ブタは、いつまでも幸せに暮らしました。

【三匹のこぶた】

「どうかしら、百合子さん」
「フフッ、素敵よ。さすがはすみれね」
 やたらと量のある長い髪を耳の横でひとまとめにしたサヨリ女が、オレの女の手元を覗き込む。このふたりは、並んで立つ時の距離がやたらと近い。内緒話でもねェのに、そこまで引っ付く必要があるのかといつも思う。
 オレはわざと大きな音を立てながら、ヘーゼルナッツのプラリネクリームを泡立ててやった。「食材は丁寧に、火と刃物は慎重に」というのがオレのモットーだが、どうせこれは今日の茶請けになる、ボンボン・ショコラの試作品なのだ。多少ガサツに作ったところで、問題はなかった。
「わたし、この頃アシンメトリーに惹かれるのよ。どうしてわかったのかしら」
「ほかならぬ百合子さんのことですもの」
「嬉しいわ。聞いた? 角野さん」
 無遠慮に厨房に入り込んで来たサヨリ女が、ついにはオレの仕事の邪魔を始める。オレが無視を決め込んでいると、サヨリ女はつまらなそうに鼻を鳴らし、オレの女との会話に戻った。
「せっかくリメイクするんですもの、ふたつのダンドゥレが映えるように、シンプルにしてみたの。テーマは兄妹……いえ、こうして見ると『母子』かしら。ダンドゥレを百合子さんに見立てて」
「あら」
 母子と聞いて、サヨリ女が声を弾ませる。
 宝飾デザイナーだったこともあるオレの女は、体調管理も忘れて取り組んでいたデザイン帳を手に、なおも熱心に説明を続けていた。アシンメトリーさながらの派手な妹分から、古くなった指輪をリメイクしたいと相談され、ここ数日、頭を悩ませていたのだ。
「サファイアは、同じサイズをもうひとつ足して3石に。ルビーは大粒をひとつだけ。でも、サファイアの一群よりは小さくして……軽く重ねた2本のダンドゥレを真珠に見立てると……ね? ぼうやとママと、お姉ちゃんになるのよ」
「奇しくもそれぞれの誕生石というわけね。ありがとう、すみれ」
「どう致しまして。出来上がりが楽しみね」
 オレの女から受け取ったデザイン画をサヨリ女がバッグにしまったところで、厨房に高低ふたつの歌声が近づいてきた。なかなかのハモりっぷりで、「橋の上で踊ろう、輪になって踊ろう」と口ずさんでいる。オレでも知っている、フランスの有名な童謡だった。
 梅澤のじいさまによる「絵本を使ったショック療法」が奏功し、オレたちの娘の精神レベルが倍年齢へと飛躍してから、まだひと月足らず。4歳児から9歳児相当の精神を持つようになったオレたちのかわいい娘は、元精神科医である梅澤のじいさまの診察を受けた翌日から、勉強漬けの毎日を送るようになっていた。ウチの看板娘として必要な知識と教養を、オレの女とサヨリ女、そして高橋の奥さんから叩き込まれているのだ。
 なかでも高橋の奥さんによるピアノと語学の集中個人レッスンは、前時代的に厳しいらしい。まさに「教鞭」と言うべき細い棒を手に、間違うと容赦なく手の甲をピシャリとやるのだ。それだけに、生徒の上達は驚くほど早かった。やっている読み書き自体は簡単なものだが、発音が恐ろしく正確なのだ。

 

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