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SF・ファンタジー・ホラー

妖服ルシクラージュ <布>

   

「ねえ、リンちゃん。ぼくたち、これからどうなるの?」
「わたしたちは、これから美しいリンネルになるの」
「リンネルって、なに?」
「布地のことよ」

妖服ルシクラージュ ~布~

Illustration:Dite

 

 泣かないで、わたしがずっとそばにいるから。
 辛いときは、あの美しいお花畑を思い出しましょう。
 そうすれば……痛みや苦しみが、少しはやわらぐと思うの。

 とある田舎町の広い広い花畑に、初夏がやってきました。
 ほんの昨日まではどこまでも続く青々とした草原だったのですが、夜明けと同時に、亜麻の花がぽつぽつと咲きはじめたのです。清々しい朝の空をそのまま落としたような、ほんの少しだけ紫色の入り混じる薄青い花びらは、まるでさなぎからかえったばかりの、蝶のはねのように柔らかでした。
「ああ、なんて気持ちの良い朝なのかしら」
 眠りから目覚めるように花開いた亜麻は、まぶしい夜明けの光を送ってくれるおひさまを見つめて、嬉しそうに微笑みました。生まれて初めて見る世界は、どこまでも美しく光り輝いています。そこにさっと風が吹き、空に銀色の薄い雨雲がかかりました。
「雨だわ」
 そう思う間もなく、銀の雲から細やかな雫が舞い降り、お姉さん亜麻の隣で眠る小さなつぼみに降り掛かりました。すると、小さな青いつぼみがふるりと揺れて、お姉さんより少しだけ小さな花を咲かせました。
「おはよう、ネルくん」
「おはよう、リンちゃん」
 いつのまにか小雨は上がり、そよ風に花びらを揺らすふたりは、とても幸せそうです。暖かな日差しを体いっぱいに浴びながら、弟の小さな亜麻は、お姉さんに尋ねました。
「ねえ、リンちゃん。ぼくたち、これからどうなるの?」
「わたしたちは、これから美しいリンネルになるの」
「リンネルって、なに?」
「布地のことよ」
「布地って?」
「ほら、あのひとを見て」
 お姉さん亜麻が、道を行く早起きの婦人を指し示します。
 丘の上の教会へ行くのでしょうか、質素ながらも、きちんとした身なりです。お姉さん亜麻は、その婦人が着ている服こそが、リンネルなのだと説明しました。
 そう、リンネルというのは、洋服の布地のことです。
 さらりとした肌触りの、真っ白いリンネルの生地は、この亜麻の茎から作られるのでした。
「わたしたちはこれから白いきれいな布になって、人間たちの着る服になるの。シャツになったり、スカートになったり、エプロンになったり。花模様のレースのついた、素敵なハンカチになることもあるみたい」
「ふぅん、そうなんだ。知らなかった」
「わたしたちがまだつぼみのときに、お百姓さんが言っていたの。この畑の亜麻はとても質が良いから、貴族の奥さまの、夏のドレスにも使われているんですって」
「ふぅん。ねえ、ぼくたち、リンネルになってもいっしょ?」
「もちろん、ずっと一緒よ。だから、なんにも心配いらないわ」
「うん!」
 きらきらのおひさまを浴びながら、亜麻の姉弟が幸せそうに笑い合います。すると、姉弟のそばに立っていた古いかかしが、フンと鼻で笑いました。

 

-SF・ファンタジー・ホラー

妖服ルシクラージュ<全2話> 第1話第2話

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