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妖服ルシクラージュ <紙>

   

「リンちゃん、ぼくたち、紙になってる」
「本当ね、なんて不思議なんでしょう」
「ぼくたち、これから本になるの?」
「そうみたい。わたしたち、きっと、あんなふうになるのね」

妖服ルシクラージュ ~紙~

Illustration:Dite

 

 布になったり、紙になったり。
 ぼくたち、いろんなものになったよね。
 痛かったし、こわかったけど……ぼく、楽しかったな。

「こいつは上出来だ。近年まれに見る、上等な仕上がりだぜ」
 これまでになく美しく織り上がったリンネルの布地を見て、お百姓さんは満足そうにうなずきました。それもそのはず、今年は亜麻の育ちが本当に良かったのです。お百姓さんはきれいに折り畳んだ布地の前で、大仕事を終えたあとの、とっておきのパイプたばこをふかしました。
 雪のように白く、羽根のように軽く、綿毛のように柔らかく。
 表面には教会のともし火にも似たほのかな輝きがあり、さらりとした手触りも、しなやかな強さも、申し分なしです。お百姓さんの笑顔に、亜麻の姉弟もすっかり嬉しくなってしまいました。
「リンちゃん、ぼく、痛いのがまんして良かった」
「そうね、本当にね」
 亜麻の姉弟は、今ではひとつに混ざり合っています。
 しっかりと手を繋ぎ合って、姉弟で一反の布になっていました。
「糸になるのも布になるのも、とっても痛くて辛かったけど、我慢して良かったよね。わたしもこんなにきれいな布地になれるなんて、思わなかった」
「ぼくたち、幸せだね」
「そうね、とっても幸せね」
 亜麻の姉弟が嬉しそうに微笑み合うなか、パイプたばこを吸い終えたお百姓さんが、よそ行きの帽子を手に出掛ける支度をはじめました。上手に織り上がったリンネルの布地を、仕立て屋さんに売りに行くのです。
「今年は上出来だからな、隣町まで行ってみるか」
 いつもは近所の仕立て屋さんに持って行くのですが、特別に良い布地が織り上がった年は、ロバに乗って隣町の仕立て屋さんに売ることにしているのです。そこは貴族や町のお金持ちたちが服を注文する、有名な仕立て屋さんなのでした。
 こうして隣町へ運ばれた亜麻の姉弟は、何人ものお針子を抱える仕立て屋さんに、良い値段で買ってもらえました。亜麻の姉弟は、これからどんな服になるのだろうと胸を弾ませていましたが、服になるためには、今までよりももっと苦しい目に遭わなくてはなりませんでした。
「リンちゃん、あのチョキチョキ音がするもの、なに?」
「わたしにもわからないの。ギラギラ光って、怖いよね」
 仕立て屋さんが持っているのは、大きな裁ちばさみでした。
 仕立て屋さんは大きな木のテーブルにリンネルの布地をいっぱいに広げると、裁ちばさみを鳴らして布地を切りはじめました。お百姓さんに大きな鎌で刈り取られたときと同じ痛みが、亜麻の姉弟に襲い掛かりました。
「いやだあっ、痛いっ、痛いっ!!」
 弟の小さな亜麻が、泣き叫びます。
 仕立て屋さんが型紙に沿って裁ちばさみを動かすたびに、全身に鋭い痛みが走るのです。辛くて辛くて、お姉さん亜麻も悲鳴を上げるほどでした。
「ネルくん……ネルくん、返事をして…………」
「リンちゃん…………」
 お姉さん亜麻の呼び掛けに、弟の小さな亜麻が、息も絶え絶えに応えます。型紙に沿っていろいろな形に切り取られた亜麻の姉弟は、お互いになぐさめ合うひまもなく、すぐにお針子さんの手に渡されました。

 

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