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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

その果ての刃 3

   

被害者の夫の書斎を調べると、本棚に懐かしいものを見つける。
湯江が少しだけ通っていた小学校の名前だった。
それを芳本刑事に告げると、被害者の妹と湯江が同じ歳だと知らされる。
もしかしたら面識があるのではないか?
そう考えた芳本刑事は湯江に刑事ではなく同級生として話を聞き出せないかと持ちかける。
渋々引き受け、1階に下りると、ひとつの花が目につき――

 

 花巻小学校卒業アルバム――この地区の小学校ではないのに、懐かしいと思ったのは、私も少しだけその小学校に通っていた時期があったから。
 通っていただけで卒業はしていないから、卒業アルバムはもちろん、当時のクラスメイトの顔や名前も正直殆ど覚えてはいない。
 井沼夫妻は同じ年齢だったから、私とは4つ違いになる。
 小学校だと通っていた時期が少しだけ重なることになる。
 そう思うと身近な人が被害者の身内ということになり、客観的に対応していた気持ちが揺らぐ感じがした。

「特定できるものは何一つないみたいだな」

 また突然背後から声をかけられた私は素で驚き振り返る。

「もう調べ終わったんですか?」

「そっちはまさか、1冊ずつ確認していたのか?」

「当然でしょう?」

「あのな、湯江。何かが挟まっていれば紙切れ1枚でもこうやって上から見ればだいたいわかるものなんだよ。それに、よく読み返していればホコリも付きにくい。結構丁寧に保管しているようだが、この辺りのアルバムは何年も手に取っていないってくらい、パッとみただけでもわかるだろうが」

 確かに言われてみれば、パッと見ただけでどれくらいの頻度でこの辺りにある物を見ているかどうかわかるけれど、アルバム類はケースの中に入っている為、一回手に取りケースから出さない限りわからない。
 ケースに入っているから敢えてそのまま放置状態なのかもしれないし。
 そんな事を考えながら動きが止まっていると、ああ……と微かな声が耳に入ってきた。

「すまん、ケースに入っているんじゃ、ケースから出さなきゃわからないな。だが、ケースから本体を出すだけでいい。中を開いて捲りながら確認する必要はないぞ。それとも、何かその卒業アルバムに不審な点でもあるのか?」

 小学校の卒業アルバムの横には、井沼猛の幼少期の頃のアルバムが並んでいた。
 おそらく、ご両親が季節ごとやイベントごとに撮影して整理していたものだと思う。
 それらのアルバムを手に取り、ケースから取だしパッと見て元に戻す芳本刑事を横目で見ながら私はなぜかこんな事をポツリと呟いてしまった。

「井沼猛の卒業した花巻小学校、私も通っていたのでちょっと懐かしくて」

 すると芳本刑事の手が止まり、ジッと私の事を見る。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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