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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

その果ての刃 5

   

井沼さつきの口から語られる話がいまいちわからない湯江刑事。
それも何れ彼女の過去を探ればわかるかもしれないと、事件解決を優先する。
その甲斐あって、次第に見えてくる被害者の関係。

 

 ゆっくりと振り返りながら、突然予想もしていなかった事を口にした彼女は、さっきまでの固い表情とは違い、懐かしい級友に再会した時のような柔らかい表情を見せる。
 だけど、私にはなんのことかさっぱりわからない。
 そんな私に彼女はこうも言う。

「湯江さんと今は名乗っているのね。高校の時、偶然あなたを見かけなければ、多分こうして再会してもあの時のあなたと同一とは思わないでしょうね」

「あの……」

「高校の全国剣道大会、私は在学していた学校のマネージャーをしていて県代表校として東京の会場に行ったのよ。あなたは学校の応援として客席にいて、キリカちゃんと周りから親しみを込めて呼ばれていた。キリカなんて珍しい名前、そうそういないものね」

 確かにキリカという名前は珍しいかもしれない。
 でも私には彼女の知っているキリカとは別人だと言い切れる自信があった。
 そう言おうと口を開いたけれど、私より先に彼女が話を続ける。

「人違いじゃない? なんて言わないで。生方キリカ……当時はそう名乗っていた。小学校2年の時に花巻小学校に転入してきて、学級委員だった私、井沼さつきがあなたの最初の友達になった。私が地元の道場に剣道を習いに行っていると話すとあなたもやりたがって、一緒に励んだのよ」

「――え?」

 思わず口から驚きの疑問が飛び出る。
 私が生方キリカと同一かもしれないということより、今目の前にいる人が井沼さつきだという事に驚いた。
 彼女が井沼さつきなら、私は聞きたい事がある。
 引き留めようと一歩を踏み出したそのタイミングに合わせるかのように、呼んだタクシーが到着して、彼女は私に背を向ける。
 タクシーに乗り込むその直前にもう一度私を見て、

「大丈夫よ、また近い内に会う事になるから。あの日の事も、誰にも言わないわ。だからね、キリカ。私を裏切らないでね」

 ――と、意味深な事を言い残し去って行った。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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