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成功商会取扱物品—001 出宝袋(前)

   

かつて悪どい手段で企業の技術を取得し、大儲けしたやり手エリート、須永 巧。しかし、その後、デイトレーディングに失敗し借金まみれになり、今では、銀行口座には三千円しか残っていないという窮状に陥っていた。

そんな須永のもとに、ミステリアスな美少女、百合が現われる。

彼女は自らを、「成功商会」の所属だと称した。

物品や技術ではなく、もっとダイレクトに、「成功」そのものを売るのが仕事だと、百合は言い切るのだった……

 

「……くそっ」
 俺は無意識に呻いていた。
 さして大きくもない声だったが、まったく周囲に人気がないこの家の隅々にまでは響き渡るだろう。
 家の電気は止められ、ガスも通じない。
 当然のように妻は出ていき、ペットの猫もいなくなった。
 もっとも、俺が猫だったとしても、こんな陰気な家と飼い主のところには、決して寄付かないだろうが。
「く、そお……っ」
 俺は、三千円しか残っていない預金残高を凝視して、呻いた。これが「現実」であり、「結果」だった。
 かつて、一億円を大きく超えていたなんて、他ならぬ俺ですら信じられない。子供の頃は、負け組に回る自分の姿など想像もしてこなかった俺が、今では、成功へのビジョンを見出すこともできなくなっている。

 子供の頃から、俺は、典型的な勝ち組だった。
 勉強もスポーツもクラスで一番だったし、部活にハマり過ぎることもなく、日本で最高の大学に入り、首席に近い成績を四年間キープし続けた。
「仕事」の場でも、俺はもっとも効率的に結果を出し続けた。
 抜群の学歴を餌に、技術系のベンチャー企業に入社し、開発中のデータを盗み出すと同時に、会社の不正の証拠を掴んで、警察と検察に通報した。
 結果、社長をはじめとする幹部社員は逮捕、会社は倒産。
 一方の俺はまったくのノーダメージで会社からの脱出に成功し、盗んだ技術を具体化して特許を取ると、その権利を他社に売り飛ばして、簡単に五千万円をという大金を掴んだ。会社の不正を通報することでの「口封じ」が成功していなければ、かなり苦労をするハメになっていただろう。
 次に狙いを付けたのは、個人での日常的な株式等取引、いわゆるデイトレーディングだった。
 その手の知識はゼロだったが、俺には情報があった。
 金で証券会社に内通者を作り、どの会社の株が上がり、下がるのかを掴んだ。
 内通者を信用せず、慎重なやり方を取っていたが、それでも三年ほどで、資産総額は二億円に達するところまでになった。マネー系の雑誌に取り上げられ、インタビューを受けたこともある。
 しかし、内通者が別の事件で捕まり、状況は悪い方向に傾いていった。
 俺の悪事がバレることはなかったが、協力者がいなくなり、株の動向はまるで掴めなくなった。
 俺の悪行は世間に広く知れ渡っていたから、今更雇ってくれる企業などない。
 友人の一人すらいない状態で、何年も苦闘を続けていたが、ここ最近の株価の乱高下相場には歯が立たず、とうとう一文無しのような状態に陥りつつあった。
 絶頂期に知り合った妻は、俺と同じぐらい欲深かつシビアで、苦闘する俺を尻目に、さっさと家を出ていき、今では携帯も繋がらない。いっそすがすがしいぐらいに、妻は、自分だけ安全圏に逃げ込んだというわけだ。もちろん、かつてプレゼントした高級車や美術品の類が、こちらに戻ってくるなどということはない。
 俺は買い込んでいたペットボトルのお茶で喉を潤しながら、頭を抱えた。
 挽回の目は、もはや完全に消えた。
 ネット環境を維持する現金もなく、この家を売ったとしても、借金の一部にしかならない。
 東京や大阪では、各社の借金取りたちが、血眼になって俺の行方を追っている。
 並の指名手配犯よりもずっときついマークをされているはずで、もし捕まれば、刑務所に行くよりもひどい目に遭うだろう。
 かと言ってムショには、俺がハメた連中、潰した企業の関係者が山ほどいる。
 何の罪であれ一度塀の中に入ったら、生きて外に出るのは難しいだろう。

 

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