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幻妖奇譚<5> 深夜の病院

   

夜……。甘い夜。せつない夜。なつかしい夜。幻妖な夜もあります。

 

 きのうはすみませんでした、刑事さん。
 ごめんなさい、ヒステリー起こして。
 だって、あんなひどい死体を見たんですもの、刑事さんに話しているうちに、なにがなんだか分からなくなっちゃって。
 でも、もう大丈夫です。
 先生にお薬もらって、一晩ぐっすり眠りましたから。
 あたしが死体を発見したときのことをお話すればいいのですね。
 なんとか話せます。
 ええ、いまでも興奮してます。
 ショックでしたもの。
 あたし、これまでで、一番ショックだったのは、小学校のとき、弟が死んだことでした。
 昨日まで元気に遊んでいた弟が、風邪にかかり、それをこじらせて、次の日、病院で死んじゃったの。
 ものすごいショックだった。
 あたしが看護師になろうと決心したのはそのときです。
 こんな悲しい思いは二度としたくない、少しでも人の命を助ける仕事をしよう、そう思ったんです。
 家は貧乏だったし、あたしの頭じゃ、お医者さんは無理だから、看護師になろう、って思ったんです。
 はっきり言って、あたし、勉強きらいです、頭も悪いし。
 看護師になるには勉強が必要ですものね。
 でも、なんとか、がんばったんです。
 弟のことを思い出し、必死でした。
 友達が遊びに行ったり漫画を見ている時間、あたしはずっと勉強していました。
 ええ、分かっているの、友達とあまりつきあわないし、頭が悪くてのろまだし、みんなはあたしのことバカにしたわ。
 でも、いいんです、遊びを知らなくても、教養がなくても、弟のことを思えば、一生懸命やるしかないでしょ。
 モル濃度とか希釈液とか、むずかしかったけど、徹夜で覚えました。
 実習で解剖もやりました。
 そりゃ、気持ち悪かったけど、弟のことを思って、がんばりました。
 なにしろ、弟の死が、一番おおきいショックだったんです、いままでは……。
 そう……、昨日のあれは……、もっと凄いショックでした。
 ついさっきまで話していた先生や先輩が、あんなことになって……。
 みんな死んで……、手や足がちぎれて……、あの親切だった吉田先生なんか、腸が出ていたんですよ……。
 あんなこと……、とても……。
 え、ああ、すいません、興奮して。
 いえ、もう大丈夫です。
 お話でしたね、ごめんなさい、弟のことなんか話して。
 あたし、頭は悪いし、話すことは苦手で、どう話したらいいか、よく分からないし。
 死体を発見したときのことを、そのまま話せばいいんですね。
 それじゃあ……。
 あたし、BシフトだもんでBにいて、用事をすませて帰ってみると、みんな倒れていて、部屋はめちゃくちゃで、びっくりしてNCのチーフに電話したんです。それでチーフが警察に……。
 え、分からない? ああ、すみません、うちの病院の言葉です。
 ごめんなさい、あたし、話がうまくないので。
 はい、ゆっくり話します。

 

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