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ラブストーリー

LOTUS 〜Under Lover〜 <後>

   

(やっぱ歯医者を継ぐとしたら、みっちゃんだよな。かわいいし、優しいし、アタマいいし……じっちゃんたちの本当の孫なんだし。大体、みっちゃんが継いだほうが、母さんも喜ぶもんな!)

LOTUS』 ―稔×瑞穂―
≪光輝*高等部2年生*5月≫

Illustration:Dite

 

 1年なんて、あっというまだった。
 だからあと2年も、あっというまに過ぎるんだろうな。
 俺とみっちゃんって……いつまで一緒にいられるんだろ。

 入学式の前日。
 陸上部の基礎トレーニングが一段落したところで、稔はトラックから離れた。「ちょっと家まで忘れ物を取りに行ってきまっす!」とコーチに断り、ジャージ姿のまま足取りも軽く校門を出る。そこで稔はピタリと足を止め、周囲に陸上部員の姿がないことを確認すると、自宅とは正反対の方向に向かって駆け出した。
(昨日のアレ、まだあるかな)
 行く先は、駅前に建つファッションビルである。
 そこの1階に入っている、女性向けの雑貨店が目的地だった。
 シュシュやカチューム、バレッタといった普段使いのヘアアクセサリーをはじめ、ピアス帽子やストールなどのファッション小物、果ては文具や食器や菓子までがところ狭しと並ぶ、見た目からして男子禁制な店である。
 どれも中高生の小遣いで買えるようなプチプライスだったが、稔のような年頃の少年がひとりで入るには、かなり抵抗のある店だと言っても良いだろう。だが、今日の稔は、どうしてもここで買い物をしなくてはならなかった。愛妹への合格祝いにふさわしいものを、この店で見つけたからである。
(まだあるよな。なんたって朝イチだし、大丈夫だよなっ)
 ファッションビルの開店直後の現地到着を狙って部活を抜け出したのは、昨日たまたま発見した目当ての品を、少しでも早く確実に買うためだった。他の客から寄せられるであろう、奇異の視線を避けるためではない。元来、周囲のことなど気にしないタイプなのである。
(あれ、絶対絶対、みっちゃんに似合うと思うんだよなぁ)
 愛妹の笑顔を思い浮かべながら、暖かな春の日差しの下を行く。
 件の品を見つけたのは、同じビルの最上階に入っている、品揃えに定評のあるスポーツ用品店に向かう途中だった。普段の稔なら何の関心もなく素通りするショップに、なぜ、昨日に限って目が行ってしまったのか。
 それはひとえに、このひと月ほど、愛する妹への合格祝いに頭を悩ませていたからである。もらった小遣いはあっというまに右から左、常に懐具合のよろしくない稔としては、手持ちの額で間に合って、なおかつ妹に喜んでもらえるような品がなかなか思いつかなかったのだ。
 そうしてモタモタしているうちに時間だけが過ぎ去り、感動の合格発表からひと月以上が経っても、稔はプレゼントの候補すら見つけられなかった。とは言え、母親の「気持ちだけで十分よ」というアドバイスでは納得できず、思い切って瑞穂本人に欲しいものを尋ねてみても、「新発売の黒蜜きなこアイスが食べたいな」などと兄の財政事情を汲んだようなことしか言わない。
 中等部時代からの友人たちに相談してもこれぞという妙案はなく、悩みは深まるばかりで、ふと気がつけば明日からはや4月。稔は、本気で焦っていたのだった。
「うん、似合う。みっちゃんだったら、似合うに決まってる!」
 こくりとうなずき、真新しい青ジャージのポケットを探る。
 今春から兄妹揃って通うことになった青慧学園は、歴史ある男子校から男女共学へと転身した、都内でも人気の中高一貫校だった。中等部と高等部では男女の制服が少しずつ異なり、体操着は完全にカラーが変わる。中等部は臙脂色の「赤ジャージ」、高等部は紺色の「青ジャージ」を着用することになっているため、なんとか無事に進級を果たした稔は、春休みに突入すると同時に高等部生用の紺色ジャージを着るようになったのだった。

 

-ラブストーリー

LOTUS 〜Under Lover〜<全2話> 第1話第2話

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