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幻妖奇譚<6> 過去

   

幻妖は面妖。真昼に面妖な時空が開くこともあります。

 

 このところ、出張で旅をするときはその街の骨董店を覗くことが習慣になっている。
 若い頃は、旅先の楽しみは夜の歓楽街へ繰り出すことだった。
 だが、この歳になるとそんな元気もない。
 静かな骨董店でしばし落ち着いた時が持てれば、それでいい。
 ついに芽が出ることなく長い年月を生き、生活に疲れた人間にも、せめてそのぐらいのくつろぎは許して欲しい。
 この辺鄙な地方へ来たのは、会社の、というより社長の命令だからである。
 社長のいやがらせでこの地方が割り当てられたのだ。
 だが、この町に来たのは偶然である。
 五つ先の駅の踏切事故で列車が止まり、ここで数時間を過ごすことになったのだ。
 時間つぶしに、駅を出て、まっすぐに伸びた大通りに降り立った。
 昼日中の時間。
 古ぼけたビルが両側に建ち並び、通りには人影が見えない。
 ゆっくりと大通りを辿り、適当なところで曲がり、大通りに平行する道を歩くことにした。
 こういったひとつ脇の道に、骨董店があることが多い。
 電柱にポスターが貼ってある。
 テレビで有名な演歌歌手の凱旋公演が公民館で行われる、との文面だが、その日時は三年前のものだ。
 色あせた写真の歌手は、私の記憶にはない。
 大きく道が曲がった所に骨董店があった。
 煤けたビルの一階にショーウインドウがあり、さまざまな古民具が道にはみ出している。
 店の前に立ち、巨大な籠、机、箪笥、石像などを眺め、ガラス越しに店の中を覗いた。
 そして――、壁際の棚にそれを見付けた。
 ガラスを通して見た薄暗い室内、古い時計がたくさん架かっている壁際の棚、しかも棚には小物が並んでいるのだから、確かとは言えないはずだ。
 だが私には、それを見分けることができた。
 少し早足で店へ入り、棚に近づく。
 煤けた招き猫とキューピーの間に、そのブリキのロボットはあった。
 表面のつやはなくなっているが、錆もなく、状態は良い。
 四角い顔にある大きな二つの目はサーチライトだ。
 口は縦の格子に印刷がしてあり、両方の耳からはアンテナが出ている。
 長い胴体には、大小のメーターが並んでいる絵が書いてあり、その下に、稲妻の絵とともに『マイティー・ジャイアント』と英語で書いてある。
 もちろん子供の私にその単語が分かるはずはなく、祖父に教えてもらったのである。
 背中には大きな膨らみがあり、そこに電池を入れるのだ。
 スイッチを入れると、目が赤く輝き、モーターのギリギリいう音とともに手足を振って動く。
 なつかしい。
 祖父とともに遊んだ過去が瞬時に思い出された。
 考えてみると、あのくらい幸せだった時代はない。
 どのくらいの値段か分からないが、昔の思い出に買ってもいいだろう。
 そのとき、後ろで声がした。

 

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