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幻影草双紙16〜バーの名前は『行蔵』〜

   

 小さい看板に『行蔵』と書いてある。
 その王義之風の書体が、超然とした中に込められた品位を表している。

 

 首相は、SPに囲まれて東京駅を出ると、車に乗った。
 黒塗りの車は、なめらかに動き出す。
 首相は、微かに溜め息をついた。
 長い一日が、ようやく終わったのだ。
 今日は、沖縄での米軍司令官との朝食で一日が始まった。
 飛行機で博多に降り、そこで講演した後、広島で地方議員と打ち合わせをした。
 大阪で経済界の団体と会議を持ち、その後、名古屋では与党の懇親会に出席した。
 帰りの新幹線の中では記者会見をした。
 そして今、東京に着いたのだ。
 これで今日の予定は終わりであった。
 だが、これで終わりではない。
 まだまだ苦労の日々が、果てしなく続くのだ。
 
 首相は、孤立無援であった。
 その理由は、『大和改革計画』にあった。
 閉塞した日本をなんとかしなければならない――、と考えた首相は、『大和改革計画』を発表した。
 もちろん左翼系の野党は反対した。
 〈大和〉とは何事だ――、
 戦前に戻るのか――、
 再軍備の影が見える――、
 というのである。
 いつも通りの反対であった。
 与党は、賛成した。
 新しいキャッチフレーズで、与党の人気が高くなれば、文句はない。
 しかし、首相が本気であることが分かり、あわててしまった。
 閉塞した日本をなんとかするために、先立つものは金である。
 『大和改革計画』に書かれた計画はいろいろあったが、その第一には増税があった。

 

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