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幻影草双紙17〜レストランの名前は『野武士』〜

   

 バーで食前酒を楽しんだら、いよいよ食事です。

 

 場所は、東京から北へ向かい、秩父山系に入った所である。
 荒れた豪農の屋敷、土地を整備してそのレストランが開店した。
 名前は『野武士』。
 レストランというより、日本料理店という方が似合うであろう。
 竹串に刺した焼き肉と新鮮な野菜が売り物の料理店なのである。
 肉は、鳥や豚はもとより、猪、鹿、熊なども供される。
 ランチメニューは、焼き肉一本と野菜サラダのセット。
 午後からは一品料理。
 焼き肉には、本数と質により、〈頭目、補佐、中堅、物見〉という名前が付いている。
 いかにも野武士の店らしいではないか。
 ちなみに、開店当時はBGMとして『七人の侍』が流されていたが、これはすぐに中止となった。
 『七人の侍』では、野武士は悪役なのである。
 それに、BGMより、風の音や小鳥の鳴き声の方が、はるかに店の雰囲気に合っている。

 店はクチコミで繁盛した。
「美味しい焼き肉が食べられる」
 これである。
 派手に宣伝をするより、上手いか不味いか、これが全てを決めるのだ。

 いつの頃か分からない――。
 誰が言い出したのか分からない――。
 この店で、裏メニューを食べる会が催されるようになった。
 店に出すには量が少なすぎる高級肉を食べる会である。
 その肉が入ったときだけ催される晩餐会なのだ。
 会の名前は『七人の侍』。
 先に述べたことをふまえたシャレであった。
 晩餐会の人数が七人でなければならない、というものではない。

 今回開かれた晩餐会では、人数は三人だけであった。
 著名な料理評論家。
 料理番組の司会で名前を売った落語家。
 それに、遊び人として有名な社長夫人、の三人である。
 いずれも料理に一家言を持ち、それにふさわしく太っている。
 シェフが厨房から出てきた。
「皆様、お味はいかがでございましょうか?」
「さすがだね。舌の上でとろける。ソースがいい。焼き具合も絶妙」と、料理評論家。
 彼が手放しでほめるのは、めずらしいことである。
「パリ、ローマ、ニューヨークと食べ歩きましたが、これほどのものはございませんでしたわ。ほ、ほ、ほ」
 これは、自己中心を身上とする社長夫人。
「僕は、コメントするには、もう少し食べたいな。シェフ、お代わりある?」
 落語家は、仕事柄なのだろうか、少し軽い。
 シェフは、満面の笑みで、お代わりを持ってきた。
 三人は、しばし沈黙して肉を味わった。

 

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