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幻影草双紙20〜ビンの魔人〜

   

 千夜一夜物語の別伝です。

 

 僧は、浜辺をゆっくりと歩いていた。
 皺が深く、日に焼けた顔である。
 眼が鋭い。
 その、刺すような眼で、海を見た。
 波が、浜辺に寄せ、返している。
 寄せて返す――、それが際限なく続いている。
 海原には、水平線まで何もない。
 水平線――、その先にも海は続いている。
 水平線で分けられた上には、空がある。
 晴れた空――、それは無限の彼方まで続いている。
 僧は、海を見て、独り言ちた。
「よくも、ここまで来たものだ……」
 これには二重の意味があった。

 僧が生まれた当時、中国は戦乱の最中にあった。
 草木が枯れ、岩だらけの荒れた土地に死体が累々とある――、そんな光景を見ながら成長したのであった。
 幼くして虚無的な考えにとらわれたとしても、やむを得ないことではある。
 彼は南山の寺へ入った。
 資質があったのであろう、すぐに一頭地を抜いた。
 若くして、師匠から悟道の允許を得た。
 だがしかし、彼は満足できなかった。
 生とは、死とは、真理とは、天地とは……。
 こうした疑問への答は得られていないのだ。
 僧は、寺を捨てた。
 西へ向かって歩く。
 灼熱の砂漠を踏破し、突兀たる山岳を越え、インドへ入った。
 その国の老僧に聞く。
「真理とは何ぞや」
 答は得られなかった。
 僧は、波頭万里を渡り、アラビアへ辿り着いた。
 長い旅の末、この浜辺へ着いたのである。
 真理探究の長い旅は、終着したのか?
 まだである。
 辿り着いた砂浜の先には、広大な海原がある。

 

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