幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

万全泥棒

   

暴力組織に所属する佐野は、完全に行き詰まっていた。頭で稼ぐこともできず、目が悪くて銃も扱えない彼は、ついに最後通告を突き付けられてしまったのだ。

途方にくれる佐野の前に、やたら羽振りの良くなった、兄貴分の渋谷が現われる。渋谷は、ある独創的な「ビジネスモデル」を打ち立て、安全に成功を収めていた。

その「ビジネス」の一端を手伝うように持ちかけられた佐野は、他に手立てもなく、「仕事」を始めることになったのだが……

 

「ったく、辛えなあ……」
 賑やかな街の中に、オレは完全に取り残されていた。
 昨日までオレの顔を見るとヘコヘコ頭を下げてきた不良連中すら今では見向きもしない。
 鼻持ちならない同業連中は、軽蔑の視線を遠慮なく向けてくる。 舌打ちをしてみても、ビビるような人間はこのあたりにはいない。
「なあ、佐野。お前、カタギになったらどうだ」
 ついさっき、オヤジ、―「火虎グループ」会長、火浦 虎高―に突きつけられた言葉が、頭の中をぐるぐる回って離れない。
 この街で百五十人からの手下を抱えるオヤジは、オレを家に呼び出すなり、普段だったら決して使わない優しい口調で、ばっさりと叩き切ってきた。
「会社員でも何でもいい。カタギになるべきだ」
「オ、オヤジ……!」
「お前、向いてねえんだよ、この手の仕事にはな。五年間間近で見てきた俺が言うんだから、間違いねえ。法律も色々変わった、世の中も変わった。だから俺らは、常に新しい商売を考えてやってかなくちゃならねえんだが、お前には地頭がなさ過ぎる」
 電流に打たれたように背をのけぞらせたオレの心をへし折るように、オヤジは言葉を継いでいった。
 殴られたことも、怒鳴られたことも数え切れないほどだが、一切目を動かさずに切り込んでくるオヤジの姿は、今まで味わったことがない怖さがあった。オヤジはまるでためらわず、とうとうと語る。
「何も、渋谷のように、どんどん新しいものを作り出せとは言わねえ。しかし、最低限、コンピューターか英語か株に対する知識のどれかがあって、簡単なサギにははめられねえぐらいの頭がねえと、この街で凌いでいくことはできん。で、おめえは、情熱はあったが習得はできなかった。致命的だな」
「しっ、しかし、オレには喧嘩の腕がっ。そこらの連中には絶対負けません」
「てめえ、近眼でハジキも使えねえだろうがっ。イキがってるうちに蜂の巣になるぞ。葬式代からお袋さんへの見舞いまで、一体誰が出すと思ってんだ!」
 オヤジに一喝され、オレのわずかな自信は改めて叩き潰された。実際、この街でのプロの喧嘩では、まず銃が出てくる。
 使うかどうかは別にして、近眼と乱視がひどく、二、三メートル先の相手にも当たらないことが知れ渡っているオレのような人間は、力がないと見なされる。
 接近戦では、防弾チョッキをも通す特殊ナイフの出番だし、中学生のように、素手の喧嘩が強ければ尊敬されるなんてことはない。 そのあたりのことを知っていれば、「業界」に入らず、ボクサーを目指していたかも分からないが、今さら格闘家を志しても無駄だろう。

 

-ノンジャンル

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16