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最終刻限(中)

   

武藤の最初で最後のタイトル獲得のチャンスに協力しようと意気込む鹿島だったが、雨の勢いが強まっていくとともに、気圧の変化もどんどんきつくなっていく。

顎に食らった一撃と鼓膜へのダメージでふらふらになった鹿島は、食事の場でも、武藤の強烈なプロ意識と、まったくその段階に達していない自分の違いを痛感するほどで、なかなか貢献することができない。

先行きが見えない中、痛みに苛まれた鹿島は、自分自身に突きつけられた「戦力外通告」のことを思い出し、改めて孤独を痛感する。

試合当日、天気がまるで好転の兆しを見せない中、ジムに一本の電話がかかってきた……

先のない男たちが挑む、最初で最後のチャンスの行方は、果たしてどうなるのか?

 

「しまった……!」
 ビルの二階に設置されているカプセルホテルのベッドの中で、時計を見た俺は呻くように声を上げた。デジタル時計「13:00」と、冷徹に現在の時間を示している。
 俺がこのベッドに潜り込んだのは、昨日の午後十時。つまり、十五時間もぶっ通しで眠っていたことになる。協力を申し出ておいてこの様じゃ、格好がつかないにも程がある。
 しかし、そんな焦りは、状況を確認するにつれて消えていき、代わりに、もっと深刻な危機感が胸にこみ上げてきた。
 俺の視界には、一切の光が差し込んでこない。
 真昼間で窓にカーテンをしていないにも関わらず、外の暗さは夜とほとんど変わらないのだ。
 相変わらず、ざあざあ、ごうごうという雨の音は聞こえている。 何よりまずいのは、そんな大雨が延々と続いているだろうはずなのに、左右の鼓膜がギリギリと軋み、全身の骨もしくしくと痛むことだ。
 鼓膜の痛みは、気圧が急変している証、すなわち、未だに天候は悪化を続けているということを意味する。
 半日以上もぶっ通しで眠っていたのも、強力な気圧にやられていたからだとすれば説明が付く。
「ぬううっ」
 思うように動かない体を引きずって着替えを済ませ、一階のジムにはカギはかかっていなかったが、誰の姿も見えない。
 練習していた熱気はもちろん、人がいた気配も感じられない。
(どうしたってんだ、一体)
 俺は途方に暮れたが、人を探すだけの余力を持てず、部屋の隅のソファーに寝転がり、誰かが来るのを待った。
 冷静になればなるほど、鼓膜と骨の痛みは堪え辛いものになっていく。
 口を開けて耳に空気を入れ、常に耳にかかる圧力を一定に保っていないと、すぐに鼓膜が破裂してしまう。
 こうなると、眠ることはおろか、深呼吸すらままならない。
 何度も口を開け閉めして、大気の状態がマシになるまで、やり過ごしているしかないのだ。
 せめて、話し相手がいれば少しは気が紛れるのだが、現状では、それも期待できない。
 幸い、一人ぼっちの時間は三十分ほどで終わった。
 ジムの前に黒く大きなワゴンの車が停まって、中から武藤先輩や寺田会長、そしてトレーナーたちが出てきた。
 皆、着慣れない雰囲気のぱりっとしたスーツをまとい、怖いぐらい真剣な顔をしている。

 

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