幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

自称天才数学者の推理記録 記録2 第2話

   

 記録2《チャンスが来たら、死ぬ気でつかめ》

 テレビ業界につきましては、M氏に教わりました。
 M氏が本文中の人物のモデルである、ということはありません。
 念のため。

 

 東洋テレビの錦織真之は、第一制作部・制作部長という肩書きを持っている。
 制作部長――、年齢の割には肩書きが大きい。
 その理由(の一つ)は、彼が仕事熱心で、敏腕だからである。
 例えば、数学者の桜小路悟一を発見したのは、錦織真之である(とされている)。
 桜小路のタレント(一般的な能力の意)にタレント(芸能人の質の意)を見出したのだ(とされている)。
 天才数学者の見つけた敏腕テレビマン、という訳だ。
 正確に言うと、自称天才数学者を見つけた自称敏腕テレビマン。
 錦織真之が、入社以来、仕事に情熱を傾けていたことは、間違いない。
 熱心に働いていたのだ。

 錦織真之が現場にいた頃――。
 朝一番にスタジオに入り、全ての準備に眼を通した。
 自分の仕事以外にも眼を配ったのである。
 本番中、彼が全神経を集中していたことは、言うまでもない。
 録画後の会議では、お茶出しからコピー配布まで、を行った。
 重役がリンゴを持っているときは、それを磨いた。
 リハーサルの場では、監督の邪魔になるのも構わず、演技に口を出した。
 若い、未熟なテレビ俳優には、とくに熱心に指導した。
 若い芽こそ、丁寧に育てなければならないのだ。
 丁寧に育てるためには、時間を気にしていては駄目である。
 テレビ局の中に人が少なくなる頃でも、彼は元気であった。
「君の演技は、まだ駄目だ」
 若い芽がうつむく。
「君は老舗旅館の三女だ。旅館は老舗だが、君は天真爛漫」
「てんしんらんまん?」
「それが出ていない。演技が堅い」
「そんなこと言われても……。演技……? どうしたらいいんです……」
「よし、これから、演技指導だ」
 若い、タレントの卵は感激した。
「先生、そこまで私のことを……、感激です」
 錦織真之は、若い芽を、ポルシェに乗せた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

自称天才数学者の推理記録 記録2《チャンスが来たら、死ぬ気でつかめ》<全11話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話第9話第10話第11話

コメントを残す

おすすめ作品