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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

自称天才数学者の推理記録 記録2 第8話

   

 記録2《チャンスが来たら、死ぬ気でつかめ》

 芸術家が生前に評価されることは、滅多にありません。
 ゴッホの絵は、生前、一枚売れただけです。

 

 次の日、桜小路悟一は、ホテルをチェックアウトした。
 明治桜花大学へ行き、潤んだような瞳の図書館員に、メモリスティックを返却した。
「書庫へお入りになるなら……、館長に話しますが」
「ありがとう。用は済みました」
 桜小路悟一は、青石中佐記念実験室記念館へ行った。
 工事の作業員に混ざって、警備会社の制服を着た人々が学校の事務員と話をしていた。
 制服の人々が、桜小路悟一を睨んだ。
 桜小路悟一は、大人しく眼をそらし、記念館を後にした。
「明後日か……」
 明後日から、青石コレクションの展示が始まる。
 警備員がピリピリするのも、無理はない。
 桜小路悟一は、公園へ行った。
 ここなら、電話をしても、人の迷惑にはならない。
「もしもし、桜小路です」
「あら、先生」
 料亭『小吉』の女将に電話したのだ。
「稽古場にある肖像画ですが……」
「お静おばあちゃんの?」
「ええ。あれ、色川常二郎という画家が描いたんでしょう?」
「そう聞いているわ」
「描かれた経緯、知っていますか」
「詳しい事までは、分からないけれど。私の知っているのは……」
 女将は、色川常二郎が駆け落ちする現場に、お静が、偶然立ち会った、としか知らなかった。
「その時ね、お静おばあちゃん、財布を渡したんですって」
「明治の人は粋だな」
「ところがね、十年ほど後に、あの絵が送られてきたそうよ」
「ふうん」
「手紙も入っていて。何て書いてあったと思う?」
「なんです?」
「《先払いして頂いた画料の絵が、やっと出来ました》ですって」
 これを気に入ったお静は、その絵を大切にした。
 そして、料亭『小吉』に、代々引き継がれているのであった。
「ね、女将」
「はい?」
「絵を写真に撮って、送ってくれませんか」
「いいわ。いつ?」
「出来たらすぐに」
「承知。このアドレスでいいのね」

 

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