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歴史・時代

ハヤブサ王 第1章 イトイヒメ(3)

   

 後継者問題を巡り、オオヤマモリノミコ、オオサザキノミコ、そしてワキノミコの三人の皇子と各豪族が大王のもとに召集された。話し合いの結果、次の大王はワキノミコに。
 だが、ワキノミコは大王という重圧に打ち震えていた。
 それを察したイトイヒメは、彼の気を宥めようと、優しく抱いてやるのだが…。

 

 軽島明宮(現奈良県橿原市大軽付近)――。
 ホムダワケ大王の宮である。ここに、三人の皇子と各豪族の長(オサ)が召集されたのが、年の明けた春先のことであった。
 ワキノミコが従者のヤマベノオオタテを連れて屋敷を出たのは、西の空が未だに漆黒の闇に包まれ、東の空がようやく群青に染まり始めていたころだった。
 見送りに出たイトイヒメは、ワキノミコになんと声をかけてよいのか分からなかった。大王の後継者問題についての召集である。大御心は、すでにワキノミコに決まっていると噂されている。だが、大王の心だけで後継者は決定されない。ことによると、豪族同士の争いになるかもしれない。ワキノミコが巻き込まれて、帰ってこないということも考えられた。
「大丈夫ですよ、今生の別れでもあるまいし」
 イトイヒメの心を察したのか、ワキノミコが笑顔を寄越した。
「ですが…」
「昼前には戻れるでしょう。妹たちをお願いします」
 彼は、まるでその存在までも消し去るかのごとく、闇の中へ消えて行った。
 イトイヒメは、その漆黒の闇をいつまでも不安な面持ちにで見続けた。
 不安な一日を過ごした。
(ワキノミコは無事に帰ってくるだろうか? 話し合いの最中に、なにかよからぬことが起きないだろうか? ああ、ヒツギ(後継者)なんてどうでもいい、ワキノミコさえ無事に帰ってきてくれれば)
 それは、親が子を待ち侘びるというよりも、女が愛する男を待ち侘びる想いに似ていた。
 ワキノミコの約束した昼を過ぎた。夕べ降った雪は、あらかた解けてしまった。
 大王の政務は、日の出前に始まり、日の出とともに終えるのが常である。こんなに長引くことなど考えられない。
(まだ帰って来ないのかしら?)
 焦燥感で、胸が張り裂けそうだった。
(なにかあったのかしら? いいえ、そんな。でも…)
 ワキノミコが屋敷に戻ってきたのは、深夜になったころだった。

 

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