幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

あぶり出し

   

「武宮商事」の社長、武宮 浩と、秘書の松森 順二は、人気のない山中に車を停め、車内モニターの様子を観察していた。

大金の入ったカバンがあるとの情報を流し、そのカバンを見つけた人がどのような行動を取るのかを逐一チェックしていたのだ。今後の事業拡大に際して、裏切らないだけのモラルを持った人間を探すという目的のための行動だった。

だが、途中で武宮は、用事をこなすために街へと戻った。自分と直属の部下しかいなくなったことを確認した松森は……

 

 某県郊外、ピクニックの名所になるほど開けてはおらず、登山の対象になるには緩やか過ぎるという位の山林の中に、場違いな一台の高級外車が停まっていた。
 周囲の風景に合わせ土色にカラーリングされているが、もし万が一近寄られたら、周囲との違和感は避けられがたいものになっていただろう。
 車中には、いかめしいスーツ姿の、これまた登山者の平均とはかけ離れた男たちが座っている。中でも、運転席でハンドルを握っている三十代ぐらいの男と、助手席から外を眺める六十代半ばの紳士の雰囲気は、どこか異様だった。
「社長、仕掛けは本当にこんな感じでよろしいのでしょうか。少し不自然なようにも思うのですが」
 運転席の男は、紳士に向かって、心配気な声を響かせた。
 ハンドルを握っている松森 順二は、助手席に座る紳士に秘書として雇われているのだ。
 これまで、苦言を述べる必要もないような、優秀な経営者だったからこそ、今、自分たちがやっていることの意味が気になって仕方がない。
「ははは、大丈夫だよ、松森君。人はあまりに魅力的なものを発見してしまうと、少々の不自然さなど気にならなくなるものだからね」
 助手席の紳士、武宮 浩が、いつも会社で見せるのと同じ、包容力と優しさに溢れた笑顔を浮かべる。
 さすがに、「武宮商事」を、一代で従業員二百人を超す企業にまで発展させてきた男だけあって、カリスマ性がある。
 会社を興してから三十年、経営判断を大きく間違えることはなく、人からも恨まれず、熱心な仕事ぶりで、ここまでのし上がってきた。基本的に、社長の言うことを聞いていれば間違いないという安心感が、社内には満ちている。
 だが、いや、だからこそと言うべきか、今武宮が取っている行動は、松森の目には、ひどく奇異なものに映った。
 土色にカモフラージュされた車内には、カーナビの代わりに小型のモニターが備え付けられている。
 すぐ近くにある監視カメラの映像を、逐一こちらに伝えるためのものだ。
 そして、その監視カメラは、雑木林の中に存在する、半径十メートルほどの木がない地帯の真ん中にぽつんと置かれた、真新しいカバンを捉えている。
 カバンの中には、百万円が入っている。
 もちろん、ニセ札などではなく、本物の金で作られた札束が入っているのだ。
 そして、中身が満載されたカバンをその場所に置いたのは、武宮たちなのである。
 それだけではなく武宮は、匿名のネット掲示板に、詳細な地図とともに、大金が入ったカバンの情報を流し、誰かがやって来るのをひたすら待っていた。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品