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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

自称天才数学者の推理記録 記録2 第11話

   2013年7月17日  

 記録2《チャンスが来たら、死ぬ気でつかめ》

 本編を創るにあたって参考にしました文献は、本文末に記してあります。

 

 東洋テレビの制作部長である錦織真之は、ホワイトボードを見ていた。
 『算士五郎七変化』の視聴率のグラフが貼ってある。
 グラフは、順調に伸びている。
(これなら、まだ、稼げるな)
 そうなると、サスペンスを付け加えなければならない。
 五郎の恋人の町娘が、実は、お姫様であった、という設定を加える予定であった。
 だが、よく考えると、いささか陳腐な設定ではある。
(もう少し、独創的な設定はないか?)
 向こう三年くらい、番組が続けられるような、サスペンス。
(桜小路先生に、相談してみようか)
 電話が鳴った。
「もしもし、錦織です」
 噂をすれば影、桜小路悟一であった。
「これは先生……」
「お話があるんですが」
「丁度いい。私も、会いたいと思っていた所でして」
「こちらへ来て頂けませんか」
「今?」
「もう終業時間でしょう。出来たらすぐに。善は急げ」
「銀座のホテルですね」
「いいえ。『小吉』。一席、設けますから」
 錦織真之は、いやな気がした。
 場所が悪い。
 それでも、断る訳にはいかない。

 錦織真之は、都内を移動するときは、ポルシェを使わない。
 性能が、十分に発揮出来ないからだ。
 今の自分の地位と同じだ、と制作部長は思っていた。
 都内の移動は、社用車、タクシー、電車、の順に選択している。
 この日は、社用車を使った。
 後部座席で、精神統一したかったのである。
(『小吉』へ行くのか……)

 料亭『小吉』は、深川にある。
 粋筋が残る深川である。
 〈ひとつの蛇の目に、寄り添いながら、黙って歩く、木場の露地〉
 こういった場所なのだ。
 錦織真之が深川へ着いたとき、誰も蛇の目をさしていなかった。
 この半月、降水量はゼロであった。
 大通りで車を降りる。
 黙って歩く。
 何のために呼び出されたのか、そればかりを考えていたのである。
 大通りから、中へ折れる。
 露地ほど狭くはない。
 考え事をしながら歩いても、人にぶつかる心配はない。
 黒塀に松、水を打った切石敷、という『小吉』の門の前に出る。
 一歩、門を入ると、三味線に小唄が聞こえてくる。
 女将が玄関で待っていた。
 いつもの笑顔であるが、心なしか緊張しているようである。
(何か、おかしいぞ)

 

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