幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

幻妖奇譚<8> 著作権

   

幻妖な時刻。それは死者が彷徨する時。

 

 編集者から、怪談を書け、という注文が来たのは大分前のことである。
 だが、今日に至るまでストーリーがまとまらない。
 それで仕方なく、昔、叔父さんから聞いた話を書くことにする。
 人から聞いたことを文章にまとめたとき著作権はどうなるか、ということが気にかかる。
 編集者に聞いても明確な答えは帰ってこなかった。
 問題となったら、そのとき弁護士に相談するしかないのかもしれない。
 ともかく、これは私が高校生の頃に、叔父さんの戦争中の体験談として聞いたことである。

 太平洋戦争の末期、叔父は、陸軍の上等兵として満州にいた。
 いまの中国東北部である。
 広大な赤茶けた大地は尽きることなく、弾薬や食料も少なくなり、敗北感の疲労が兵隊の間に漂っていたという。
 生き残った兵隊を集めて部隊が再編され、叔父がいる中隊は、ある寒村に配備された。
 そして、村に着いたその夜、だれもが異様な感覚にとらわれたそうである。
 明日は敵の総攻撃がある、という氷のような思いである。
 このようないわゆる第六感が本当にあるのかどうかわからない。
 だが叔父の話によれば、長いこと戦場で生命の危機にさらされていると、理屈では説明のつかないことがあり、それを当然として受け入れるのだそうである。
 いよいよ明日死ぬかもしれないという雰囲気は、妙に静かなものであった。
 粛々と諦観しているのだ。
「話を聞いてもらえるか」
 叔父の隣にいる兵隊が話しかけてきた。
 他の部隊から来た者でまだ名前も知らなかったが、このような夜である、だれもが、静かに話し、それを丁寧に聞くのであった。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品