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ノンジャンル

1985年、僕らは…… 3通目

   

上総との約束のひとつがやっと叶い、僕は祖父母と共につくば万博へと行く。
多くの人に戸惑いと驚きがあるものの、次第に場の雰囲気に馴染んでいく。
そんな中、5歳の僕はあろうことか上総にまさかの……

 

 8月1日、久しぶりに上総が学校に行くと、ひとり家の中に取り残された僕は、ひとりぼっちという寂しさに、半べそ状態だった。
 昼過ぎに学校から帰って来た上総は、そんな僕にごめんと謝る。
 当時は、その謝罪が嬉しかったけど、今思えば上総が謝る必要は全くない。
 長い休みは『夏休み』というもので、その休みの間、2回登校日がある。
 更にいえば、毎朝学校の校庭でラジオ体操がある。
 皆勤賞を取ればノートが貰えるのだということも、自分が学校に行くようになってはじめて知る。
 なぜ上総はラジオ体操に行かなかったんだろう……
 自分がそれを体験するようになって、はじめて感じる疑問だったが、まだまだ上総の置かれた状況を理解するには、その時の僕は幼すぎた。
「ごめんね、良隆。でも暫く寂しい思いはさせないから」
「本当に?」
「うん、本当。それにね、良隆が宿題手伝ってくれたから、もう殆ど終わってるんだよ。だから、これからはもっと一緒に遊べるよ」
「本当?」
「僕だって本当は遊びたいんだ。嘘じゃない」
「虫取りに行く? プールは? お祭りは?」
「う……ん、えっとね。虫取りとプールは無理かな。でもお祭りは行きたいね。今度の日曜日だっけ」
「うん、そう」
 お祭りには行くと言ってくれたのに、虫取りとプールを断られた僕は当然不貞腐れる。
 遊ぶと言ったその後に無理と言われちゃ、そういう顔にもなる。
 そのやりとりを見ていた祖母が間に入ってくる。
「良隆、上総を困らせちゃいけないよ。プールはおじいさんと行けばいい」
「え~」
 かなり不満のえ~を繰り返す。
「おじいさん、泳げるんだよ。良隆は泳げるのかい?」
「ううん。でも浮き輪があれば……」
「そう。でももし浮き輪なしで泳げるようになったら、上総も一緒に行くっていうかもしれないよ」
「本当に?」
「えっと……うん、そうだね。良隆に泳ぎ、教わろうかな」
「僕が上総に教えるの?」
 突き放されたような寂しさから、一気に解放される。
 また上総の役に立てるという気持ちが、さっきまでのつまらなさを塗り替える。
 その事で満たされた僕は、困ったような笑みを浮かべる上総の本心に気づくことはない。
「うん、そうだよ。でもその前に、僕、良隆と一緒に行きたいところがあるんだ」
「どこ?」
「つくば万博。知ってる?」
「知らな~い。そこ、楽しいの?」
「楽しいよ。というか、僕は良隆と行くところなら、どこでも楽しいよ。良隆は違うの?」
「違わない。僕も上総と一緒がいい」
 登校日の今日、学校で割引券を貰ったという上総は、一緒に行こうと僕を誘った。
 子供ふたりで行けるはずもなく、祖父母に連れていってもらうんだけど、最初に立てた予定日は、上総の都合で行けなくなってしまう。
 期待して裏切られて、また期待して……5歳の時の僕は、かなり激しい感情の浮き沈みを体験していた。
 それから暫くして、やっと約束が叶ったのは、2回目の登校日の日だった。
 登校日なのに学校に行かず万博に行く。
 普通なら考えられないような行動だけど、当時の僕はそんなこと知ったことではない。
 もちろん、学校に行かずに万博に行ったのには、それなりの理由がある。
 知っているは祖父母と上総で、僕ひとりだけその事情を知らない。
 知っていたとしても、5歳じゃ理解できていなかったと思う。

 

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