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ラブストーリー

罪咎∞ #5【小夜子】

   

斗夜の前に姿を見せたのは、ずっと探していた女だった。
――が、何かが違う。
女が明かす真実とは…?

 

 美しく長い黒髪がゆらりと風になびく。
 軽く髪を手で押さえた女が、俺を見て微笑んだ。
「久しぶりね、斗夜」
 声も仕草も彼女そのもの。
 俺がずっと探していた女が目の前にいる。
「小夜子……か?」
 だが、あれから何年経っている?
 軽く20年は経っているんじゃないか?
 あの頃の俺はまだガキで、きっと10代後半でも大人の女に見えた筈だ。
 仮に最悪のケース……女子高生という年齢でなかったとして、19歳、20歳としよう。
 今は39歳か40歳ということになるが、歳より若く見えると言っても限度がある。
 目の前にいる女は、あの時のまま一切歳を取っていないようにみえる。
「斗夜、どうかした? もうおねーさんといい事しようと誘える歳でもないわね。おにーさん、私といいことしない? そう誘う方がしっくりくる。そう思うでしょう?」
 確かに、俺の方が年上にしか見えない。
 こんなことがありえるのか?
「幽霊……てことはないよな?」
「クスッ、面白いことを言うのね。抱いてみる?」
 抱いてみる……だと?
 ガキの頃の記憶なんて曖昧だが、小夜子の口から「抱いてみる?」なんて言葉はでなかった。
 そりゃ、俺がガキ過ぎて女を抱くということが、どんなことかわからなかったからかもしれないが、仮に知っていたとして、あの時の小夜子はそんな事を口にしただろうか。
 俺が小夜子に惹かれたのは、そんな言葉を口にしなかったからだと言ってもいい。
「お前、誰だ? 小夜子じゃないだろ。それに、俺がここで待ち合わせているのは、お前じゃない」
「いいえ、私よ、斗夜。依頼主は、私……小夜子」
「お前が依頼主だと? そうだとしても、お前は小夜子じゃない」
「あら、どうして? あなたの中にある記憶と同じでしょう?」
「俺の中にある記憶? どういう意味だ?」
 小夜子との事を知っている室井にでさえ、小夜子と交わした言葉までは教えていない。
 いや、小夜子の事も教えていないかもしれない。
 互いに黒髪の女としか言わないのだから、酒の勢いで言ってしまったということもないのだろう。
 ではなぜ、この女はそれを知っている?
「ねえ、この数日のこと、記憶にある? 金髪巻き毛の女性とホテルに行って、そのホテルで何をしたの? セックス? そのセックスの記憶はある?」
「セックスの記憶?」
 正直、それはない。
 身体に残る気だるさを、行為をしたからだと思っていたが、違うのか?
「ないのよね。でも、したのよ、私たち、セックス。あなたは何度も口にしたわ……小夜子、小夜子と」
「なっ……んだって?」
「そろそろ気づかない? おびき寄せたい男とは誰だったのか。協力者の女性は誰だったのか。依頼人は誰だったのか、その目的も……本当は勘付いているのに、それを認めるのが怖いのよね、斗夜は。昔からそうだった。私を見るのに、女として見ているのに手を出さない。未成年だからかと思っていたけれど、実は違ったのよね。小夜子という女を私に重ねていただけ。どう?」
「お前……まさか……」
 度々危険だと俺の勘が警告をしていた。
 違和感を抱きつつも仕事を続けたのは、抑えきれない欲求が根底にあったからだ。
 なぜ警告が?
 なぜ抑えきれないところまで追い込まれた?
 決まっている……それは――

 

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