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ラブストーリー

LOTUS extra 〜Nino*Nina〜 <後>

   

「にのまえさん。あなた、本当にあたしを探して聖園に来たの?」
「そうだ」
「どうして?」

LOTUS』 ― 一一×吉岡新菜―
≪「LOTUS」「ニーノ・ニーナ」 番外編≫

Illustration:まめゆか

 

「…………ねえ、お姉ちゃん」
「なあに?」
「あたし、お姉ちゃんより早く死にたいな。こうやってお姉ちゃんにギュッてしてもらってね、そのまま目を閉じて、眠るみたいに死にたいの」
「馬鹿なこと言わないの」
 お姉ちゃんが、あたしの髪を優しくなでる。
 あたしは、お姉ちゃんの胸に軽く頬を寄せる。
 雷の夜は特別。
 高校生になっても、お姉ちゃんに甘えることができるから。
 夜中に枕持参で、お姉ちゃんの部屋へ行っても怒られないから。
「それに死ぬんだったら、わたしのほうが先でしょう? なんでも順番よ、順番」
「じゃあ、一緒ならいい? お姉ちゃんと一緒に死にたい」
「だめよ。先に死ぬのも、一緒に死ぬのもだめ。5年遅く生まれてきたんだから、最低でもわたしより5年は長生きしなくちゃだめでしょう。10年、20年……30年でもいいわ」
 言葉を強めてあたしを見据えたお姉ちゃんの、その黒い瞳が少しだけうるんでいたのを、あたしは今でもよく覚えている。あたしが「そんなのイヤ」と首を振ったら、お姉ちゃんは小さな子供のわがままをたしなめるように、あたしの髪を何度もなでた。
「やだやだ。あたし、お姉ちゃんがいない世界で、そんなに長生きしたくない」
「わがまま言わないの。いいわね、新菜はわたしより1日でもいいから、長生きをするのよ。約束よ」
「やーだー」
「もう。じゃあ、わたしが死んだら、天国の入口で新菜が来るのを待っていてあげる。そこから地上を見下ろして、一生懸命に生きる新菜を見ていてあげる。だから新菜は、新菜の天寿をまっとうしてから来なさいね」
 ひどく一方的な約束だと思ったけれど、お姉ちゃんの言うことはいつだって正しかったから、あたしは口を閉じた。ついでに、もう眠ってしまおうと目も閉じた。
 こんなの、ただのたとえ話。
 お姉ちゃんは死んだりしない。
 あたしを置いて、死んだりしない。
 絶対に。絶対に――――――――。

 学び舎に響く校搭の鐘の音で、昨夜の夢の名残りから覚める。
 あたしの勤めるカトリック系の女学院は、あと数年で創立100周年を迎える、古い学校だった。いわゆる「お嬢さま女学校」としてスタートして以来、小規模私立として慎ましくやってきたせいか、創立当初から校風にはほとんど変化がないらしい。
 あたしやお姉ちゃんの時代はもちろん、今も変わらず「善き妻、善き母」を目指しているのだから、確かに時代錯誤な学校だった。
(大体、制服が戦前から変わらないんだから)
 この年頃の女の子たちが最も気にするであろう制服は、昭和初期に定められた初代のまま。プリーツの一本もない、古風なAラインワンピースのセーラー服に、肌の露出を許さない黒タイツという組み合わせで、おまけに靴まで黒いワンストラップの指定品だった。
 あたしがここの生徒だった頃も、友達と「早く制服のデザインを変えたらいいのに」という話をよくしたものだった。セーラー服の体裁を取ってはいるものの、イメージはまるきり修道服なのだ。
 もっとも、あたしにとってはカラダのラインを――大きいのが嫌だった胸を適度に隠してくれたから、そんなに悪いものでもなかったけれど。
「さてと。今日からまた、新しい1年ね」
 入学式も滞りなく終わり、かわいい新入生たちは、ちょうど初めてのホームルームが終わったところ。あとは聖堂の前で記念撮影をして、今日は放課になる。あたしは新1年生の名簿に目をやって、小さく息をついた。

 

-ラブストーリー

LOTUS extra 〜Nino*Nina〜<全2話> 第1話第2話

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