幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

歴史・時代

ハヤブサ王 第1章 〜イトイヒメ(4)

   

 後継者問題も終結し、平穏な日々が訪れると思っていたイトイヒメ。だが、政局を揺るがすような噂が耐えないのも事実であった。不安になるイトイヒメ。やがて、その不安が現実のものに…。

 

 ワキノミコがヒツギノミコ(後継者)に指名されたことに対して、異論を唱える豪族があった。
 イトイヒメは、政争が起こるのでは、と懸念していた。
 だが、ヤマベノオオタテの、
「そこは、尾張のタケイナダ様が不満の豪族方を集めて、よくよく説き伏せられました」
 との言葉を聞いて、胸を撫で下ろした。
 女が政に口を挟むべきではない、と分かっている。だが、自分の義理の息子、それも恋人のように愛おしい人が、その中に足を踏み込んだのなら、その人のこと、そしてその人が置かれてる状況を知りたいと思うのが、母であり、女であろう。
 ホムダワケ大王なら直接訊いても優しく教えてくれそうだが、はしたない女だと思われては、と流石に訊きづらい。
 そのため、従者のオオタテを宮に向かわせ、情報収集をさせているような現状だった。
 この日も、西日が僅かに入り込む広間で、イトイヒメはオオタテの情報に耳を傾けた。
「やはり、大豪族の長は違いますな。いまは大和一円の団結を図り、大八洲(日本の古称)を統一するのが先決。ワキノミコ様ならば統合の象徴となるであろう、と豪族方におっしゃったそうです」
 尾張氏の長タケイナダは、後継者争いでは長女の子どもにあたるオオヤマモリノミコを推挙した。最終的には、丸邇(ワニ)氏のヒレフノオオミの根回しとオオヤマモリノミコの不用意な一言で、ワキノミコが指名され、タケイナダは面目を潰された形となったのだが、そこは大豪族の長、政局を見極め、ワキノミコのほうに転向したのであろう。
「ですが、オオヤマモリノミコ様はご立腹のようで…」
 ワキノミコがヒツギノミコに指名されてからというもの、オオヤマモリノミコは屋敷に籠もり、朝から酒を飲み、女たちの肉に溺れるというご乱行であった。
「オオヤマモリノミコ様を推していた豪族も、どんどん見限っておるような状況です」
「そうですか…。では、オオサザキノミコ様は?」
 オオサザキノミコもまた後継者として推挙されたが、後見人である葛城のソツビコが早い段階からワキノミコ派に移り、オオサザキノミコ自身も保身を図ってワキノミコ側に付いたので、大王の補佐という重要な役を得ることができた。
「オオサザキノミコ様はご立派な方です。恨み事など一切なされないとか」
「そうですか、それは良うございました」
「ですが」
 眉を寄せたオオタテの顔に、イトイヒメは体を強張らせた。
「なにかあるのですか?」
「はあ…、どうもナカヒメ様が、大変なご立腹のようで…」
「ナカヒメ様が…」
 イトイヒメは、ナカヒメのきゅっと上がった眉ときりりと締まった唇を思い浮かべた。ナカヒメとは、一度顔を会わせた程度だが、それでもあの頑固そうな面持ちを忘れることはできない。

 

-歴史・時代


コメントを残す

おすすめ作品