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ノンジャンル

愉悦と犬

   

誇り高き老犬と罪を犯した少女。

 

 ――眼に焼きついたそれは苦悩よりも強い愉悦を呼び起こした。

 苦しみと痛みは錆びた水に似た味がする。
 この世界のどこにも居場所なんてありはしない。
 無責任な父親、奔放すぎる母親、壊れてしまった姉、友達という皮を被った屑、それらの前で曖昧に笑うことしかできない私。でも薄汚い周囲よりも自分のことが一番嫌いだった。

 曖昧に笑うことでしか、自分を守れなかった。

「ガキのくせに」と父親が罵る。
「好きにすれば」と母親は薄ら嗤う。
「私の苦しみは誰も分からない」と姉は泣き狂い、「私達、友達でしょ」と厭らしく微笑みながら友達が掌を差し出す。

 冷たい風が吹き荒ぶ夕闇の小さな公園は人通りも少ない。もう往く当てのない私が彷徨い辿り着いた場所。強く握り締めた両手にはもう感覚すら残っていない。
 ベンチに座り込みながら自嘲気味に口元を歪めた。

「どうして」という疑問は随分前に捨てた。誰に訊くこともできない問いの答えなんて、持っているだけ無駄だから。

 

-ノンジャンル


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