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報酬は山分けで

   

泥棒ギルドに所属するコードネーム「カード」たちは、老手品師に頼まれ、歴史的価値のある宝石を、偽物ブローカーの手から盗み取ることに成功した。
だが、仲間の一人だった「マシーン」が報酬は山分け、宝石は依頼者に返すという約束を破り、宝石を奪い、自宅に閉じこもってしまう。

長年、莫大な私財を投じてきた「マシーン」の館は、地上には沢山の警備兵が詰めており、空からの侵入にも万全の防衛網を敷いていた。

せいぜい伝統的な手品用具しかない「カード」たちにとっては、突破など不可能に思われた。

だが、「カード」は防御を突破するための一案を思いつく……

 

 夏が過ぎ、秋が来る。
 朝夕はめっきり涼しくなり、空気の中のじめつきもなくなる季節である。
 過ごしやすくなった夜は楽しめる。最低気温でも三十度を超えていた、灼熱の夏の埋め合わせをするように、たっぷりと充実した睡眠を取る人も多い。
「うぬぬぬ……っ」
 とは言え、何らかの事情で眠れない夜を過ごしている人も少なくない。
 小さな旧洋館の一室で、車座になって座っている、「泥棒ギルド 第百八十五部隊」に属する四名もまた、ここ数日、眠れない日々を送っていた。
「ああくそっ、『マシーン』めっ。せっかくの仕事に、泥を塗りやがってよっ」
 今年でキャリア十年になるコードネーム「カード」が声を荒げた。
 正確な年齢は自分でも覚えていない。
 本名なるものも存在しない。
 世界中の一線級のプロだけが加入できる「泥棒ギルド」に属する人間にとって、個人情報の徹底抹消は、基本的なマナーの一つである。
 ギルド構成員は、例外なく割り振られたコードネームで互いを呼び合う。
「業界人の風上にも置けねえ。お宝は隊で山分けるもんだ」
「イヤホン」が吐き捨てるように言うと、「ミキサー」も無言で頷く。
 実際、彼らが今、難しい顔で向かい合わざるを得ない状況を生み出したアクシデントは、ギルドの常識からすれば、まったく考えられないことだった。
 今回、第百八十五隊は、金銭的にも、そして恐らくは人道的にも、いい仕事をした。
 いくつかの策略を巡らせて、「翼紋石」と呼ばれる、特別なデザインが刻まれたダイヤモンドを、偽造品ブローカーの手から取り戻し、元の所有者である「仕事」の依頼人に返すことができた。
 もし仕事にしくじっていたら、由緒ある翼紋石は、人工ダイヤや代用品までにも共通する、汎用的なデザインとして使われることになっていたかも知れない。
 世界に二つとない、オリジナルの価値を守れた上、依頼者の思い出をを守れた今回の成果は素晴らしいものだった。
 だが、綿密な計画と大胆な行動によって、ようやく手に入れた翼紋石は、現在、「カード」たちの手元にはない。
 メンバーの一人だった「マシーン」が、一瞬の隙をついて石を奪い取り、この館から目と鼻の先にあるビルに閉じこもってしまったのだ。
 ビルは「マシーン」の所有物で、無理矢理押し入ることはできない。
 元々の約束は、仕事に関わった全員で報酬は均等分配ということだったのだが、分け前をよこせ、と押しかけることができない。つまり、このままでは、報酬は手に入らないし、翼紋石も、依頼者の元には戻らないということになる。

 

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