幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

うめ絵(え)ハナシ

   

画廊を営む武井 正平は、経営に行き詰まっていた。素人をターゲットにし、価値のない絵を、「デート商法」まがいのやり方で買わせるというえげつない手口が悪評を呼び、今や、ほとんど客は寄り付かないという状況だった。

そんなある日、武井のもとに、いかにも大物的な雰囲気を漂わせた紳士が現われる。深田 太郎と名乗るその紳士は、自分が扱っている無名の画家の絵を置いてくれと頼んできた……

深田とその仲間たちが、小悪党・武井に持ちかけた「うめ絵」話とは……?

 

「じゃ、じゃあ、これ、買います。十二回払いで……」
「わあっ! 純一、ありがとう!」
 首都圏某所の一等地にある画廊の中で、場に似つかわしくない歓声が響いた。
 黒のスーツを隙なく着こなした、武井 正平は、すぐ傍らに展示された絵を買うと言った、若い男性に向かって、深々と頭を下げた。
 若者の腕に絡み付いている女の子は、アイドル並のルックスとスタイルを有していて、十人並みでしかない男性とは釣り合わないようにも見えるが、女の子はまったく意に介さずに、若者への好意を見せつけてくる。
「いやあ、お目が高い。はっきり言って、家宝にもなるような品ですよ、本来は。こんなこと、絵を売っている私が言うのもなんですが、多分、二度と入荷できるような代物じゃありません。商売でなけりゃあ、正直手元に置いておきたいぐらいです。何せ、ロペス・ファラーの初期の名作ですからね……」
 武井は、まるでプロの俳優のように、すらすらと賞賛の言葉を口にした。
 恐らく、あまり周りに褒められていないだろう青年は、頬を少し赤く染めて頭をかき、腕を組んでいる女の子の方を見て笑った。
 どうやら、絵の代金、三万五千円分の満足感は得られたようだ。
「今日は本当にありがとうございました。今後も良い作品を揃えておきますので、是非ともまた、お越し下さい」
 武井は、カップルを、ラウンジの玄関で見送りながら、深々と頭を下げた。
 二人の足音が、徐々に遠ざかり、やがて武井には聞こえなくなる。
「ふう……っ、やれやれ……」
 完全に足音が消えてから、さらに十秒ほどが経過したところで、ようやく武井は身を起こした。
 その表情には、客には決して見せることのない、傲慢さと疲労がはっきりと刻まれている。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品