幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

タカラくじ スターダム大作戦(前)

   

佐野 洋二は、突然に倒産を決めた友人、池田 富士男に戸惑っていた。

特に資産家でもない池田の立場からすれば、簡単に仕事を辞められるわけはなかったはずなのに、彼は簡単に倒産を決意し、しかもなぜか余裕があった。

佐野が立て替えておいた飲み屋のツケの代わりに、池田は、仕事を辞めた理由を教えてくれたのだが、それは意外にも「宝くじ」を利用して、確実に儲ける方法というものだった。

佐野は、池田からの情報をもとに、宝くじの自動販売機へと向かうのだったが……

 

「会社を畳む、だって!?」
 事務所の中に、俺の声だけが響いた。普段、三十人からの社員たちで賑わっていたのが嘘のように、オフィスは静まり返っている。 事務所に必要な道具や器材などもほとんど姿を消してしまっていた。
「ああ、辞めることにした。海外の安い品に対抗するには、一から設備を入れ替えなくちゃならねえし、利益が出ているうちにって決めたんだ。社員にも退職金は出した」
 部屋にたった一つ残った社長用の椅子に腰掛けたまま、池田 富士男は断言した。
 中学を出てすぐ仕事を始め、二十五歳の時に会社を立ち上げ、以来十五年以上、工具製造会社の経営者として実績を上げてきた男である。
 確かに最近は、輸入品の影響からか、売り上げを落としていたらしいが、すぐに諦めてしまうような、ヤワな根性の持ち主ではない。
 実際、今俺の目の前にいる彼は、活力に満ちた表情をしていた。 ヤケで言っているのではないことは明らかだった。
「だ、だけどよ、借金がないからって、辞めてどうするんだよ。食っていくアテはあるのか。状況がまずくなってから就職しようったって……」
「ふふふ、もちろん抜かりはねえよ。これがあるからな」
 池田は、俺の言葉を遮る形で、笑い声を上げるとともに、右手で壁を指差した。
 今まで、カレンダーや予定表が占めていたところに、女性タレントの笑顔が眩しいポスターが貼られている。
(あああ……)
 その美麗なポスターを見た瞬間、俺は、危うくため息をつきかけた。
 驚きはなかったが、落胆は大きい。「スターダムチケット 賞金総額百億円!!」という、一昔前では考えられないほどの威勢の良いフレーズは、もう何回となく見聞きしてきた。

 

-ノンジャンル

タカラくじ スターダム大作戦<全2話> 第1話第2話