幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

   

漆黒の衣装に身を包むその姿は、まるで鴉のようだった――。鴉シリーズ

 

 そのマンションは警備員が常駐することからも、セキュリティの堅さを疑うべくもない。だがそのセキュリティは外部からの侵入に対して有効でも、内部での行動を阻害するものではない。

 それはある意味で、そのセキュリティを突破しようと企む者にとっては当然の理屈だった。

 その男は酷くやつれていた。三ヶ月前にこのマンションの夜間警備員として雇われた男だ。深く抉るように頬がこけ白目は黄色掛り、ここ数日は風呂に入っていないような饐えた異臭を放ち、それでも眼だけは爛々と輝いていた。

 警備員の制服は脱ぎ捨てた。何故ならばもう必要がないからだ。代わりに纏ったのは、あの日に着ていた黒いシャツと褪せた黒いジーンズ。

 その姿は、さながら鴉のようだった。

 ふらりふらりと覚束ない足取りで、鴉はマンションの1階をエレベーターホールに向かい歩く。

 この十年間、ずっとこの機会を狙っていた。あの日、自分に決定的な運命を突きつけた、あの男に会う機会を。

 何故、彼女は壊されたのだろう。
 何故、あいつはのうのうと生きているのだろう。
 何故、俺は赦されないのだろう。
 何度も何度も自分に問い掛け、その度に泣き喚き運命と自分の無力を呪った。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品