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幻影草双紙27〜ツタンカーメンの呪い〜

   

 ツタンカーメンに関わった人は、すべて、呪い殺されています。
 わたしも、ツタンカーメンをタイトルにした小説を書いてしまった。
 殺されるかもしれない……。

 

 そもそもの始まりは、1年前のことであった。

 その日、畑野憲司は、市民会館の地下にあるコーヒールームで一息ついていた。
 講演で、120分間休みなく話を続けて、いささか疲れたのである。
 ふと見ると、デイパックを持った、小作りの中年の男が近づいてくる。
 先ほどの講演の時、最前列で話を聞いていた、髪の毛が灰色の男である。
(まずいな……)
 と、畑野憲司は思った。
 正直なところ、これ以上かかわりたくない雰囲気を持った男であった。

 畑野憲司、昭和梧桐大学の準教授である。
 準教授として赴任したばかりなのだ。
 専攻は物理学。
 芸術を中心とする昭和梧桐大学に物理学とは奇妙に聞こえるかもしれないが、一般教養の科目で、物理学は必要なのである。
 ちょうど、先任の教授が定年で辞めたときであった。
「誰か、物理の先生はいないか? 少し若くて、二十年くらい置いておけるヤツ」
 ということで、ヨーロッパの留学から帰ってきたばかりの畑野憲司が採用されたのである。
「一般教養の科目なんだから、人が充当されれば、それでいいの。ウチの大学は、高尚な芸術がメインなんだから」
 というわけなのだ。
 畑野憲司は、学内では、あまり重きがおかれていないのである。
 だからといって、遊んでいてよいわけではない。
 きちんと授業をしなければならない。
 インフラ関係の小委員会の委員となったので、それに出席しなければならない。
 それだけではない。
 社会に貢献しなければならない。
 現代は、大学は象牙の塔である、などと威張っている時代ではない。
 社会に向けてのサービスも必要なのだ。
 そういうことで、一般の人向けの教養講座の一環として『物理の不思議な世界』という題で講演をすることになったのであった。
 畑野憲司は、教室で学生に話すのであれば、半日話をしていても疲れない。
 あたりまえのことである。
 だが、一般の人向けは、慣れていない。
 何となく勝手が違い、疲れたのであった。
 出来たら一人になりたい……。
 しかし、講演を聴いた〈お客様〉をないがしろにするわけにはいかない。

 

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