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幻影草双紙28〜ビンから出てきた魔人〜

   

 これも、千夜一夜物語の外伝です。

 

 男は、浜辺をゆっくりと歩いていた。
 長身である。
 背筋をしっかりと伸ばしているので、さらに背が高く見える。
 眼は鋭い。
 その、射るような眼で、海を見た。
 帯緑色の海原が水平線まで続いている。
 水平線の上は空である。
 雲が一つもない。
 濃紺の空に、沸騰する油の太陽が輝いている。
 眼を細めて太陽を見る。
 それから水平線に視線を戻し、波の具合を観察した。
 風と波を読む――、身に付いた習慣である。
「故郷の海岸とは、えらい違いだ」
 思わず独り言が出た。

 男が育ったのは、北海を臨むイギリスの田舎であった。
 生まれたのはロンドンであるが、直ぐに、一家の領地である田舎へ移されたのだ。
 その地で、貴族の跡取りとして育成されたのである。
 男は、海を見るのが好きであった。
 北海の荒涼とした海。
 海――。
 それは、男の家系の原点であった。
 先祖は、不完全な六分儀とクロノメータをたよりに海原へ出て、海賊をした。
 これで財産を作り、貴族として認められたのである。
 今は海賊の時代ではない。
 植民地政策の時代である。
 男は、貴族の師弟の習いとして、海軍に入った。
 さまざまな戦闘を経験し、政治を勉強した。
 そして今、上級将校として、ここに派遣されていた。
 インドとの地理関係で見れば、重要なのはここ、アラビアである。
 この地をどうやって支配するか……。

 

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