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幻影草双紙30〜なせばなる〜

   

 なせばなる。なさねばならぬ、なにごとも。
 ならぬは、ひとの、なさぬなりけり。

 

 科学の発達を促すものは何であろうか。
 その一つは、洞察力、簡単に言えば、柔らかい頭である。
 ブドウ球菌の培養皿に、偶然、青カビが付着したとき、菌が発育しなかった。
 これを見て、「ちぇ、失敗した」と培養皿を捨ててしまったならば、ペニシリンは発明されなかったであろう。
 名作映画『第三の男』も生まれなかったはずである。
「どうなってんだ、これ。待てよ……」と考えたので、フレミングはノーベル賞を受賞したのである。
 偶然生じた現象を「待てよ」と考える柔らかい頭、これが科学の発達を促すのだ。
 だが、柔らかい頭が必要ない場合もある。
 20世紀も終わりの頃、アメリカのファイザー社は、心臓の薬を開発していた。
 臨床試験の結果は、おもわしくなかった。
 それどころか、副作用が、偶然、見つかったのである。
 一酸化窒素の平滑筋弛緩作用を高めて、陰茎の勃起を促進する副作用――。
 柔らかい頭は必要なかった。
 ファイザー社は、驚喜して、男性の性的不能治療薬として、新薬申請をした。
 その結果は……、もちろん、史上最速のスピードで認可され、バイアグラとして発売されたのだ。
 男性人類は、20世紀後半になり、ようやくセックスのコンプレックスから解放されたのである。
 男性は驚喜した。
 いや違う、前言撤回。
 女性も驚喜したのだ。
 だがしかし、ふと立ち止まって考えれば、なぜ20世紀まで、このような薬が開発されなかったのであろうか――、という疑問が出て来る。
 人類は、長い年月の間、経験的に、さまざまな植物から薬を作り出していた。
 昔々、王様に仕えていた魔術師や魔法使いは、ありとあらゆる植物の葉や根、種などを混ぜていたはずである。
 偶然に、バイアグラの化学組成に似た物質を作り出すことも、あったのではないだろうか――。
 ベッドの上で、ある化学者は、冷静に、こうしたことを考えた。
 それとも――。
 それとも、バイアグラを合成するには、現代化学の技術がどうしても必要なのであろうか――。
 化学者は、バイアグラの分子構造を考え直してみた。
「ねえ、何を考えているの?」
 彼の下の女が、猫撫で声を出した。
「早く、きてよ。ねぇ、ってばぁ」
 化学者は、考えることを止め、バイアグラの臨床試験の追跡確認実証調査を再開したのであった。

 

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