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ノンジャンル

幻影草双紙31〜ある仕事〜

   

 完璧に仕上げたつもりでも、ミスがあった。
 もしくは、ミスをしたのでは、と心配になる。
 どんな仕事にもあることです。

 

 小松健一郎は、名古屋駅を降りて、通りを歩いていった。
 信号を渡って……、コンビニがあり……、そこを曲がる……。
 教えられたとおりに進む。
 ビルが建ち並んでいる。
 そのビルに一つに、《斉藤行政書士事務所》という、何の変哲もない看板があった。
「これだな」
 小松健一郎は、重い鞄を抱えてビルの階段を登り、斉藤行政書士の事務所へ入った。
「いらっしゃいませ」
 机に座った、中年の男が言った。
「ええと、斉藤さん……?」
「はい、行政書士の斉藤です。斉藤和義と申します」
「熊本出身の友人から、紹介されたんですけれど」
「は? いろいろなお客様がおりますが、熊本出身の方はいたかな。それで、どのようなご用でしょうか」
「会社設立の書類をお願いしたいのです」
「分かりました。どちらに設立を?」
「北海道です」
「それは、遠い。難しそうですな」
「なにしろ殺人的な忙しさなんで、新しい会社を作って分業しないと……」
「なるほど。別室で、じっくり、お聞きしましょう。こちらへ……」
 斉藤和義は、小松健一郎を、奥の部屋へ案内した。
 机と椅子、壁際にスチール製のファイルボックス、それに大きな金属製のゴミ箱だけの、殺風景な部屋である。
 壁に掛かっている、富士山の写真が付いたカレンダーが、唯一の飾りであろうか。
「それで、ご用件を、もう一度」
「殺人をお願いします」
「え? ご冗談でしょう」
「そんなはずはない。とぼけないで下さいよ。必死なんだから」
「殺人だなんて、とんでもない。警察に連絡しますよ」
「斉藤行政書士事務所が、殺人依頼の窓口だと、熊本の友人から聞いたんです。どうしても死んで貰いたいヤツがいるんです」
「別な斉藤事務所でしょう。平凡な名前だから、間違えたんだ。わたしは、真面目な仕事をしている行政書士ですよ」
「しかし……」

 

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