幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

隠し棒

   

在京プロ野球団「南関東シャークス」の編成部長、種浦 陽一は、これ以上ないほどに悩んでいた。チームが首位から六十ゲーム以上も離され、しかも主力選手が交通事故で大怪我。浮上のきっかけをまるで見出せないほどに追い込まれていたのだ。

しかし、最後の望みであるドラフト会議を前に、スカウトの仲沢 茂は、起死回生が狙える人材がいると持ちかけてきた。唐突な申し出だったが、他に打開策を見出せるわけでもない。結局、種浦は、仲沢に従い、車で都内郊外のバッティングセンターを訪れたのだが……

 

「うーむ、ダメだ……」
 在京プロ野球団、「南関東シャークス」の編成部長である、種浦 陽一は、頭を抱えていた。
 狭いオフィスの中には、彼以外の人間はいない。
 チーム編成の担当者は、全員出払っている。ドラフト会議が間近に迫ったこの時期、暇を持て余す余裕などないのだ。
「ぬううう、どうしてこんなことに……」
 種浦は呻いた。
 人を率いる立場として、普段は決して愚痴などこぼさないのだが、この報告を聞いてしまっては、感情を抑えることなどできない。
「シャークスさんですか? たった今、うちの病院にですね、おたくの選手が運ばれてきたんです。太田投手と横山投手、それから、捕手の、ええと……」
 球場近くの病院から入ってきた第一報に、種浦は意識を失いかけた。
 練習がオフということで、ドライブをしていた球団の選手四人が走行中に対物事故を起こし、病院に担ぎ込まれたのだ。
 しかも、車に乗っていたのは、先発ローテーション三本柱を占める投手たちと、レギュラーキャッチャーだったのだ。
 野球という競技でもっとも重要度が高い先発投手と、守備の要である捕手が、丸ごと病院送りになってしまったという、球団史上最悪の事故が、よりによって、首位から六十五ゲーム差の最下位という史上最低の成績を残した今年に発生してしまったのである。
 幸い、命には別条ないらしいが、骨折や腱断裂などをしているらしく、だとすれば、怪我の具合は実に悪い。来シーズンの開幕どころか、現役復帰できるかどうかも怪しいレベルだ。
 そして、戦力を補充できる金もない。
 もし事故った彼らが復帰できなかったとしたら、来シーズンも確実にぶっち切りの最下位である。
 今年の観客動員数は、シーズン途中で二十連敗を喫してしまったこともあり、最悪だった。こんな調子がいつまでも続いていたら、いくら野球が大好きなオーナーがついていると言っても、球団の解散もあり得るだろう。
 せめて、少しでも明るい材料が欲しい。だが、今のチーム内には、どこを見ても、希望になりそうな要素は見当たらない。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品