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鐘が鳴る時 ■予感-七海朔也 弐

   

見せられた真紅の鎧、それを着て倒れていたという。お前は誰だと問われても答えられない俺の代わりに、沖田さんが自身の仮説を立て始めた。

 

「これは……」
 先ほど原田さんが言っていた、甲冑というものだとすぐにわかったが、それを口にすることが出来なかった。
 なぜこれが甲冑であると知っていたのかと問い詰められても、相手が納得できるような説明が出来るとは思えなかったからだ。
 言葉が出ずにいた俺の代わりに原田さんが口を開く。
「さっき言ったのは、これのことだ。甲冑、鎧という代物で、今の時代では、ここまで大がかりな物はあまり身に付けはしない」
「そこから考えられることはこうだ」
 原田さんの説明を引き継ぐように、土方さんが言う。
「この甲冑の持ち主……だが、原田も言ったように今は殆ど使わないことから、代々引き継いでいた物ではないかということになる。しかし、それでは説明のつかないこともある」
 箱の中から日本刀を取りだし、鞘から抜く。
「余計なこととは思ったが、口の堅い職人に研いでもらった。お前が握っていた刀だ。手から離れないよう紐布で縛り、刃こぼれも激しく、人を斬ることが困難な程。血で赤く染まった刀を握り真紅の鎧を纏ったお前はまるで、激しい戦から命からがら逃げて来たような、そんな感じだった」
「戦……俺が?」
「ああ、気にしないでくれ。あくまでも私の仮説だ。到底考えられない仮説だがな。というのも、そこまで激しい戦があれば、情報として入ってくるものだ。だが、そんな話は聞かない。では、これらをどう説明するか……本人に聞くしかないというのが結論だ。が、お前には記憶がないと聞く。記憶を失くす程の激しい戦だったのか? いや、違うな。もっとなにか、奥深い事情があるのではないか」
 問われても、俺には答えられる程の記憶がない。
 土方さんの話はまるで他人事でしかなかった。
「駄目ですよ、土方さん。そんな問い詰めるような聞き方をしては。記憶を戻すには、きっかけ、糸口が必要だと思うのです」
「総司?」
「その鎧は紅蓮ととても派手ではありますが、それだけではきっかけにはならないでしょう」
 言いながら腰をあげ、すすすっと前に出てくる。
 さりげなく箱の横に座り込み、中から取り出したのは羽織りもののようだ。
「私はこの羽織に興味があります」
「おいおい沖田、おまえの興味はいいんだよ。朔也の記憶が戻るきっかけが必要なんだろう?」
 呆れたような口調で口を挟む原田さんだが、沖田さんは冷静に対応する。
「焦らないでくださいよ、原田さん。私が言いたいのは、この羽織に付いている家紋です。六文銭といえば真田の家紋。七海は真田ゆかりの者ではないでしょうか」
 手に取り、胸元辺りに付いている六文銭の家紋を俺に見せた。
「そういえば、総司はそれ系の知識に詳しかったな」
「いえいえ、ただの興味の延長ですよ、土方さん。幼い頃、姉の留守中にすることといえば、書物を読むくらいでしたから」

 

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